ジャック・ヴァンス著 / 浅倉 久志訳
殊能将之氏のヴァンス雑感いろいろの中で、「伝奇小説の書き方としては正解」という文章を読んだとき疑問に思っていたことが腑に落ちた。
ヴァンスは結局のところSF作家、ファンタジー作家という以前に、伝奇作家だったのだということに気付かされたからだ。
伝奇作家だからこそアラスター星団シリーズといった、完結すれば三千冊の連作長編となる、お前は一人でペリー・ローダンを書き上げるつもりなのかと問いつめたくなるようなシリーズを書こうと思うのだ。本人は決して三千冊の連作長編を、書けないなどとは思っていないに違いない。
だからこそこういうタイプの作家は、失明しようがなんだろうが、書くことが出来る限り物語を書き続けるのだろう。
で、めでたく復刊した「竜を駆る種族」の話に移ろう。
ヴァンス万歳と言いたいところだけど、旧版の武部本一郎の挿絵や口絵が無くなってしまったのは非常に残念。旧版を読んだのはかなり昔のことで、どんな絵だったのかも忘れきってしまっていたのでなおさらというもの。しかし戦いの場面になったときに旧版の口絵が頭の中に蘇ってきたからびっくり、奥深いところで記憶に残っていたんだなあ。
しかし絵の方は記憶に残っていたのに対してお話の方はあまり覚えていなく、再読してみると一見シリアスながらもかなり楽しい話だったのに気付かされる。敵であるベイシック族はにっちもさっちもいかなくなると知能を捨て去って現実逃避をはかるし、「波羅門」はにっちもさっちもいかなくなると死ぬ。ようするにダブルバインド状態になったときにどういう行動にでるのかってことだけども、当たり前のことを異質に見せる手腕はさすがだ。
しかしなんと言っても最高に愉快なのはやはり「波羅門」で、あらゆる欲望を捨て、悟りきったような存在でありながら実は強欲の固まり、最後になって欲望丸出しでブチ切れるあたりなんて素晴らしすぎますよ。とくに何喰わぬ顔をしてひっそりと○○○を作っていたりするところなんて、お前は「遊星からの物体X」かとつっこみたくなったよ。(カーペンター版のほうね)
ベイシック族は人間を捕まえて兵隊として品種改良し、人間側は過去に捕まえたベイシック族を兵隊として品種改良しているというグロテスクな設定も皮肉で楽しい。初めて読んだときにはこんなところで終わってしまうなんて、と思ったんだけど、この話はここで終わるのが正しいのだろう。
さて、「金剛」「羅刹」といった竜の名前が、原著ではどのような名前だったのか調べてみたら意外と簡単に見つかったので、その部分を引用してみよう。新版の18ページ一行目後半から4行目の部分に該当する。
the rust-red Termagant; the Long-horned Murderer and its cousin the Striding Murderer; the Blue Horror; the Fiend, low to the ground, immensely strong, tail tipped with a steel barbel; the ponderous Jugger, skull-cap polished and white as an egg.
やっぱりいいなあ、ヴァンスは。
ヴァンスは結局のところSF作家、ファンタジー作家という以前に、伝奇作家だったのだということに気付かされたからだ。
伝奇作家だからこそアラスター星団シリーズといった、完結すれば三千冊の連作長編となる、お前は一人でペリー・ローダンを書き上げるつもりなのかと問いつめたくなるようなシリーズを書こうと思うのだ。本人は決して三千冊の連作長編を、書けないなどとは思っていないに違いない。
だからこそこういうタイプの作家は、失明しようがなんだろうが、書くことが出来る限り物語を書き続けるのだろう。
で、めでたく復刊した「竜を駆る種族」の話に移ろう。
ヴァンス万歳と言いたいところだけど、旧版の武部本一郎の挿絵や口絵が無くなってしまったのは非常に残念。旧版を読んだのはかなり昔のことで、どんな絵だったのかも忘れきってしまっていたのでなおさらというもの。しかし戦いの場面になったときに旧版の口絵が頭の中に蘇ってきたからびっくり、奥深いところで記憶に残っていたんだなあ。
しかし絵の方は記憶に残っていたのに対してお話の方はあまり覚えていなく、再読してみると一見シリアスながらもかなり楽しい話だったのに気付かされる。敵であるベイシック族はにっちもさっちもいかなくなると知能を捨て去って現実逃避をはかるし、「波羅門」はにっちもさっちもいかなくなると死ぬ。ようするにダブルバインド状態になったときにどういう行動にでるのかってことだけども、当たり前のことを異質に見せる手腕はさすがだ。
しかしなんと言っても最高に愉快なのはやはり「波羅門」で、あらゆる欲望を捨て、悟りきったような存在でありながら実は強欲の固まり、最後になって欲望丸出しでブチ切れるあたりなんて素晴らしすぎますよ。とくに何喰わぬ顔をしてひっそりと○○○を作っていたりするところなんて、お前は「遊星からの物体X」かとつっこみたくなったよ。(カーペンター版のほうね)
ベイシック族は人間を捕まえて兵隊として品種改良し、人間側は過去に捕まえたベイシック族を兵隊として品種改良しているというグロテスクな設定も皮肉で楽しい。初めて読んだときにはこんなところで終わってしまうなんて、と思ったんだけど、この話はここで終わるのが正しいのだろう。
さて、「金剛」「羅刹」といった竜の名前が、原著ではどのような名前だったのか調べてみたら意外と簡単に見つかったので、その部分を引用してみよう。新版の18ページ一行目後半から4行目の部分に該当する。
the rust-red Termagant; the Long-horned Murderer and its cousin the Striding Murderer; the Blue Horror; the Fiend, low to the ground, immensely strong, tail tipped with a steel barbel; the ponderous Jugger, skull-cap polished and white as an egg.
やっぱりいいなあ、ヴァンスは。
コメント
ジャック・ヴァンス『竜を駆る種族』暗鬱さの魅力
ジャック・ヴァンス・・・・・・“あの”が付くような伝説的SF作家だと思うのだけれども、今ひとつ作品の印象が無い。昔々に<魔王子>シリーズを読んだはずなんだが・・・・・・
そのヴァンス作品の新装刊ということで、期待して読んでみた。
竜を駆る種族posted with 簡単リンクくん at 2006.12.11ジャック・ヴァンス著 / 浅倉 久志訳早川書房 (2006.11)ISBN : 4150115907価格 : \693通常24時間以内に発送します。オンライン書店ビーケーワンで詳細を見るAmazon, Excite
■あらすじ
時は遠い未来。いったんは星々に広がりつつも落魄の身となった人類が細々と暮らす惑星、エーリスが舞台。
エーリスの人類は、かつて人類を品種改良して使役する異星種族の侵略を受け、捨て身の戦いで辛くも撃退した歴史を持つ。その後エーリス人は、逆に、侵略撃退の際に捕虜にした異星種族を“竜”と名づけて品種改良。その“竜”を人間同士の戦争の主力兵器として利用しているのだった。
現在の惑星エーリスは、居住地域ごとの勢力に分かれた普通のヒトと、独特の戒律を持ち謎めいた生活を送る“波羅門”に分かれる。通常人の二大勢力であるジョアズ率いる<バンベック平>とカーコロが率いる<幸いの谷>は、それぞれ“竜”の軍勢を育成し、一触即発でにらみ合う状態。そんな中、ジョアズは、波羅門の謎めいた活動と、異星種族の故郷と言われる遊星の再接近の兆候に気づいた・・・・・・
竜を駆る種族
竜を駆る種族[:読書:]
ジャック・ヴァンス
過去に異星人ベイシックに侵略された惑星エーリスは
彼らが置いていった卵から竜を誕生させていた。
その力をめぐり地上でも戦いの火蓋がおとされた!
そんな中、またベイシックがやってくる兆候が現われ。。
惑星エーリスの人々は人類最後の生き残りなのか?
ヒューゴー賞受賞作。
あけましておめでとうございます!
Takemanさんの書評でチェックしていた「竜を駆る種族」
読みました~SFトファンタジーが合わさってすごく良かったです。
SF本をたくさん読んでらっしゃるので参考にさせてもらってます(^_^)
リンクの方も貼らせて頂きました(事後承諾でスミマセン)
今後ともよろしくお願いします。
ユキノさん、あけましておめでとうございます。
ヴァンスの作品を喜んでもらえると、こちらもうれしいですねえ。
この勢いで、未訳の作品がどんどん翻訳されてくれるとうれしいのですが、ひとまずは国書刊行会のヴァンス短編集に期待をしたいところです。
あけましておめでとうございます。
河出の年代別SF集成で、『月の蛾』を読んで以来、ヴァンスの作品が読みたいなあと思っていたら、復刊していたので読んでみました。とても、面白かったです。
過去のエピソードで、ベイシックが自爆しちゃったときには、ギャグかと思って、笑っちゃいましたが、どうやら、そうではないみたい?バラモンの最後の攻撃も、Takemanさんのつっこみでギャグなシチュエーションだと気づきました。ありがとうございます。
今後も、続々復刊していただきたいですね。
SF読まなきゃ(105) ジャック・ヴァンス『竜を駆る種族』
はるかな未来、人類最後の生き残りが住むさいはての惑星エーリスでは、風雲急を告げていた。バンベック一族の住むバンベック平を幸いの谷の一族カーコロが狙っていたのだ。異星の爬虫類種族を育て、さまざまな竜―――阿修羅や金剛や一角竜から成る軍隊に仕立てたバンベッ….
A・Tさん、あけましておめでとうございます。
ヴァンスという人はひねくれているのかどうなのかわからないのですが、ギャグなシチュエーションでも何喰わぬ顔をしてまじめに描いてしまうんですよねえ。慣れてくるとそのあたりがものすごく楽しいんですけど。
竜を駆る種族
ジャック ヴァンス, Jack Vance, 浅倉 久志
竜を駆る種族
「竜を駆る種族」
ジャック・ヴァンス・著/浅倉久志・訳
早川書房・出版/ハヤカワSF文庫
『ノヴェラ(中編)ですが、各要素ぎゅーっと凝縮されています』
本作、SF界では、名作として知られています。
竜を駆る種族
ジャック ヴァンス, Jack Vance, 浅倉 久志
竜を駆る種族
「竜を駆る種族」
ジャック・ヴァンス・著/浅倉久志・訳
早川書房・出版/ハヤカワSF文庫
『ノヴェラ(中編)ですが、各要素ぎゅーっと凝縮されています』
本作、SF界では、名作として知られていま
竜を駆る種族〜ジャック・ヴァンス?
岩と荒地の惑星エーリス。
はるかな昔,星間戦争の末,疲弊した人類はこの辺境の惑星に細々と命脈を保っていた。
領主ジョーズ・バンベックは,彼と敵対するアービス・カーコロとの緊張関係の中,惑星コラリンがエーリスへと接近することに憂慮の念を抱いていた。
コラリンの「ベイシック」と呼ばれる高度な知能を有する爬虫類種族が来襲する時期がやってきたことを。
最近復刊を遂げたジャック・ヴァンスの傑作であります。
異国風物誌作家というべきヴァンスさんの作品だけに,情景描写はなかなか見事なものであります。
「竜」の造型もよろしいなあ。
原種となった捕れわれ竜―
青い真珠色の体を,二本の脚で直立させ,よく動く二本の中央肢と,首のつけ根にもう一対の多関節肢を備えた生物である。
Takemanさんの記事にもありますように,旧版の口絵の方が原作の雰囲気をよく伝えております。新版は,トリケラトプスみたいですねえ。
エーリスの人間たちが,コラリンの「竜」たちを改良して,多様な戦闘用品種を作り出したのと同様に,コラリンの竜たちも,連れ去ったエーリスの人間を改良して,巨人などを作り出し,互いに死闘を繰り広げる。
気味の悪い設定が実に生き生きとした,おぞましい戦闘シーンを生み出し,よい効果をあげています。ここらへんは,ジュラシック・パークにも負けていません。
もう一つ,「波羅門」という人種が登場しますが,これもいい味出してます。
この連中のわけわからなさと高慢さと身勝手さとともに,結局利用されてしまったことへの歯噛みのシーンなど笑ってしまいます。
バンベックもカーコロも,「波羅門」を不条理な者どもと見ていますが,それ以前にこの作品も相当不条理であります。
巨大な宇宙船で攻め寄せ,破壊ビームなど高度な大量破壊兵器を有しているベイシックが,なぜ,わざわざ,人類の品種改良版をしこしことこしらえて,“人力”でもって先陣をきらせる必要があるのでしょうか。
原種のベイシックが,気高く尊いゆえに,捕虜の恥辱に耐えることのかわりに,尊いあるじたることを棄てて,“別種の生きもの”となったとありますが,これはちょっとすごいですねえ。まあ,わけわからない「精神構造」を描くのが好きなヴァンスさんですから。
というわけで,面白いけれども,なかなか感情移入のしにくそう
最近ようやく読んだんですけど,やっぱりいい作品ですねえ。強引な設定と妙にディテールにこだわった情景・心象描写など。
ラストもハッピーエンドじゃないし。
私は,SFマガジンの方で読みましたが,挿絵の「金剛」なんかヒキガエルそっくりに描かれていて,思わず納得しましたね。
とっつきにくいけれども、一度はまると癖になりますよねえ、ヴァンスは。
不条理に近い強引な設定はよくよく考えるとおかしいのですが、読んでいる最中は不思議と納得させられてしまいます。