今回は外国が舞台。それもショパンコンクールが開催されるポーランド。
となると、一色まことの『ピアノの森』を彷彿させる、というか比較してしまいがちになる。
『ピアノの森』の方はショパンコンクール編が始まって長いことなるし、主人公のライバルも数多く登場し、それぞれの登場人物に対するエピソードにもかなりページが割かれているうえにまだ話が終わっていない。
それと比べると、長編とはいえ一冊で完結しているこちらの方は分が悪いのだが、コンクール出場者のポーランド人青年を視点人物にコンパクトにまとめ上げ、なおかつ爆弾テロが発生しているさなかのショパンコンクールというなかなかサスペンスフルな状況でスピーディーに物語が進む。
特筆すというべきは、このシリーズの特徴でもあるのだけれども、音楽の演奏というものを言葉でもって描き切っているという点で、『ピアノの森』が漫画という絵で音楽を表現できるという利点と比べてかなり制約を受ける言葉だけで描いていながらも、読みながら音楽を感じ取ることができるというところだ。
そしてこの演奏シーンを読むだけでもこの本を読む価値がありなおかつショパンコンクールでの主人公たちの物語も面白い。そのせいで両手の指を全て切断されて殺された男の謎という魅力的な謎でありながらも、ミステリとしての側面の物語などどうでもよくなってしまうというのが欠点でもある。それを受けてか、だんだんとこのシリーズもミステリ度が低くなってきているようだ。
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