以前にも書いたけれども、くまおり純が表紙を描いた本と僕とは相性がいいようで、この本もその例外ではなかった。
作者の高田侑に関してはホラーサスペンス大賞を受賞してデビューしたという程度しか知識はなく、なんとなくホラー系の話を書く作家だと思っていた。
で、今回はこの本以外に同じレーベルのハヤカワ文庫JAから同時に発売された他の作品を見る限りではホラーではなくミステリ系の話が多かったので、この話もホラーというよりもミステリ要素のある話だと思って読んだ。のだが、オビや裏表紙のあらすじを見る限りではミステリ的な要素はなさそうな感じでもある。
主人公はバツイチ子持ちの29歳の女性。社長の息子であり、職場の専務でもある青年から結婚を前提に付き合って欲しいと言われ、とまどいながらも付き合い始めた矢先、昔の恋愛相手が突如、同じ職場に就職してくる。物語はそんな現在の主人公の物語と、11年前の主人公の物語が交互に描かれる。徐々に11年前にどんなことが起こっていたのか、そしてそれが現在の主人公のにどういう影響を与えようとしているのかが少しずつ見えてくる。それだけならば単なる恋愛物語で終わってしまうのだが、物語の後半、突如としてミステリ的な要素が立ち上がってきて、物語が急展開する。
もう少し早い段階でミステリ的な要素が起こっていたのならばもう少し印象は変わったのかもしれないが、もしそうだったとしたら凡百なミステリとして終わっていただろう。アガサ・クリスティのミステリに『ゼロ時間へ』というミステリがある。これは殺人が起こる時間をゼロ時間とし、そこにいたるまでの登場人物の様子を丹念に描いたミステリで僕の好きなミステリの一つでもあるが『雨の向こう側』も同様で、ミステリとしての事件が起こるまでを丹念に描いた話であるが故に、恋愛そのものをミステリとしての面白さと同一レベルで堪能することができるのだ。
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