国枝史郎伝奇全集 巻2
来月の気になる本 2006/03で、この機会に読んでみようと書いておきながらそんなことなどすっかり忘れてしまっていた国枝史郎の「神州纐纈城」をようやく読みました。
私が持っているのは講談社大衆文学館シリーズの第一回配本のもので、オビに藤沢周平氏と高橋克彦氏の二人がこのシリーズに寄せた言葉が書かれているのですが、高橋克彦氏の言葉が泣かせます。これほどまでのものが絶版になって読めないでいたとは……、というような内容なのですが、講談社大衆文学館シリーズが出たのが1995年、そしてそれから十年以上もの年月が経ち講談社大衆文学館シリーズは全て絶版、歴史は何度も繰り返すものです。
で、内容の方はというと想像していたよりもちょっとおとなしめの展開で少し拍子抜けしたんですが、それは、主人公と思われた土屋庄三郎が意外と活躍せず周りに翻弄されてしまっているせいなのかもしれません。
考えてみると土屋庄三郎は主人公というよりも物語の始動役みたいなもので、一度物語りが動き出してしまえば個々の登場人物たちが勝手に動き出してしまいます。先のことなど考えていないんじゃないだろうかって思うくらいに勝手気ままに行動する登場人物たち。普通ならばラスボス的な存在である纐纈城の城主でさえも、物語途中で故郷が恋しくなったといって一人で城を出て、甲府の町にさまよい出る始末です。しかも纐纈城城主は恐るべき病にかかっており、甲府の人々は疫病に苦しみ町は阿鼻叫喚の地獄絵図と化すのです。かといって纐纈城城主が悪の権化かといえばそうでもないところが一筋縄ではいかないところで、それぞれの登場人物がそれぞれの業を背負っている部分が物語に深みをましています。
いや、ページをめくる手がとまらないというのはまさにこのことで、連載小説であるが故に途中で終わってしまえばそうなるのは必然ですが、その後はどうなったと非常に気になるところでブチ切れているところが切ないですよ。塚原ト伝と三合目陶器師の対決なんて、どっちが倒れたんだろうか。
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