歌手の早川義夫が本屋さんを営んでいた時代のエッセイ集。
ということで同じ書店員のエッセイということで『傷だらけの店長』と比較してみると、『傷だらけの店長』よりは悲惨ではないけれども、書店という形態の店が抱えるさまざまな問題はやはりここでも浮き彫りにされ、読んでいて切なくなる。解説を書いた大槻ケンヂが、この本を読んで本屋さんになろうとしたことを止めたと書いているけれども、確かにそのとおりだと思う。
早川義夫が開いていた本屋さんがどのくらいの規模の本屋さんだったのかはわからないけれども、本文を読む限りではそれほど広くはない書店でおそらくは町の小さな書店といった規模だったのだろう。
僕がまだ小さかった頃は僕が住んでいるような地方の街では個人経営の小さな本屋さんというのがまだたくさんあって、そういう書店が僕にとって唯一の本との出会いの場所であり、行くたびに新たな本との出会いがある素敵な場所だった。
しかし、子供だった僕にとっては素敵な場所であっても、実際に経営する側に立ってみると全然素敵な場所ではなかったというのがこの本を読むとよく分かる。仕入れたい本を仕入れることができないうえに、いらない本が毎日送られてくる。店に無い本を注文しても、いつ入荷されるのかもわからない。毎月発売される雑誌ですら、発売日に入荷されるとは限らないというのは出版業界のあまりにも特殊すぎる形態で、それを思うと、本は好きだけれども本屋さんにはなれないなあと思ってしまう。
このように、少しずつ、小さな本屋さんが町から消えていった理由もよく分かるので、小さな本屋さんがこの先も生き残って欲しいなどというつもりはない。ただ、小さい頃に、こんな小さな本屋さんという素敵な場所を訪れることができたというのは僕にとって素敵な体験であり思い出でもある、ただそれだけだ。
『ぼくは本屋のおやじさん』早川義夫

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