『恋愛の解体と北区の滅亡』前田司郎

  • 著: 前田司郎
  • 販売元/出版社: 講談社
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夏の水の半魚人』が面白かったので、今度は『恋愛の解体と北区の滅亡』を読んでみた。
のだが、『夏の水の半魚人』とは異なる雰囲気の物語だったので驚いた。
そもそも、宇宙人が東京にUFOでやってきてそしてサンシャイン60の上に着陸したという状況下の物語だ。そしてそれはテレビ中継され、その緊急特番の司会をたけしが行っている。つまり時代背景としては現代で、未来の話ではない。そんな中、主人公は何をするのかといえば街へとぶらり繰り出し、対して興味もないのにSMクラブへ行ってMプレイのコースを頼む。さらには、どんなコスチュームがお望みですかと聞かれ、てっきり相手が着る服装だとか思い込んで選んだスクール水着を自分が着るハメになる。SコースではなくMコースなのだから考えてみれば相手ではなく自分が着るコスチュームであるのは当たり前だ。
宇宙人が現れててんやわんやな状況でありながらも、風俗業界はしっかりと営業していて、もちろんコンビニだって営業しているし、テレビに釘付けな人は大半だろうけれども、主人公のようにリアルタイムで宇宙人の様子をテレビで見なくっても後でみればいいやとたいして気にしていない人間もいる。のだが、やっぱりこの主人公は一般とは違う行動をしているだけあって、要所要所で他者とのコミュニケーションが咬み合わない。
SMクラブの店長は宇宙人によって人類は滅亡すると信じているし、読んでいる読者も大して情報が与えられていないから、ひょっとしたらこの物語の宇宙人はこの後、人類を滅亡させる行動に出るのかもしれないと思ってしまうし、だからこの物語は人類最後の日の一人の青年のごく普通に過ごした一日を描いた物語なのかもしれないと思ってしまう。それはまるで、僕がオールタイム・ベストに必ず入れる短編、メアリー・スーン・リーの「彼らがやって来た前日に」を彷彿させる物語でもある。というのはちょっと言い過ぎかもしれないけれども、でもこういう話は好きだ。
併録された「ウンコに代わる次世代排泄物ファナモ」もおかしな話で、文字通りウンコをファナモという次世代の排泄物に変える医療技術ができた時代の話で、次世代排泄物は匂いもしないし、適度な硬さで、しかも衛生的にもまったく大丈夫という排泄物なのだ。
もちろんそんな物ができたらみんなそっちのほうに乗り換えるだろうけれども、この物語はそんな社会現象を描くという方向へは進まず、そもそも短編なのでそんなことまで書いていたらキリがない。つまるところ、一人の青年がいかにして次世代排泄物の手術を受けるに至ったのかという物語を彼の彼女の視点から描いた話でありながらも、やっぱり変な物語なのだ。

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