宮下奈都が描く女性が、いい意味で一直線の人物設定で、物語の中においてぶれずに素直に突き進んでいくのに対して柚木麻子が描く女性はぶれる。
このぶれるというのは悪い意味ではなく、さらにいえば物語の進行において考え方や感情の部分の振り幅が大きいという意味だ。そういう点でいえば、柚木麻子の方が物語の主人公らしくないとも言えるし、よりリアルな人物像だとも言える。
ただ、物語としてのカタルシスという部分を求めるのであれば、宮下奈都の物語を読んだほうがよりカタルシスを得ることができるわけで一概にどちらが良いというわけではない。
食べ物を手がかりに謎を解くという触れ込みではあるが、実際に読んでみるとそこまでミステリっぽくはない。というのも作者自身がミステリの方法論でもって物語を書いているわけではないからで、ミステリではない文学としての方法論で持って謎解きの物語を書いているので、読んでいてもそれほどミステリを読んでいるという気持ちはしないのだ。
むしろこの本の面白さは先に書いた登場人物たちのぶれの大きさの部分であって、全五話、最初の四話でそれぞれ四人が主要人物となって物語が展開され、物語の時系列としては順番に時間が経過していくのだが、その時間の経過とともに登場人物達も変化していく。いや変化するというよりも振り子のように良い方向と悪い方向との間を行ったり来たりする。
コメント