川上 弘美
携帯なんか、嫌いだ、とわたしは思う。いったいぜんたい、だれがこんな不便なものを発明したのだろう。どんな場所どんな状況にあっても、かなりの高率でうけることのできる電話なんて、恋愛--うまくいっている恋愛も、うまくいっていない恋愛も--にとっては、害悪以外のなにものでもない。
主人公のヒトミさんがタケオとけんかをしてしまい、何日かはタケオのことを無視するのだが、つい電話をかけてしまう。しかしタケオは電話にでてくれない。ヒトミさんはつながらない電話をかけるたびに相手が電話に出ることができない理由を一生懸命考えて、電話にでてくれないことを自分に納得させようとするが、とうとう癇癪を起こし、上記のセリフをいう。
そうだよ、そうだよ。まったくもってそのとおり。
便利さを突き詰めていくと、どこかで不便さがでてしまう。これは科学や技術なんかの限界のせいではなく、人というのは合理的な便利さを享受できる生き物ではないせいじゃないだろうかと思ったりもする。
それにしても川上弘美が食べ物のことを書くと、どうしてこんなにおいしそうに見えるのだろう。文章になんか怪しげな魔法でもかけてあるんじゃないかと思う。
コメント