川上弘美
ツキコさん、ワタクシはいったいあと、どのくらい生きられるでしょう。
37才のツキコさんと70代のセンセイの、ゆっくりと、そしてゆったりと、季節の移り変わりとともに進んでゆく恋愛物語です。近所の駅前の飲み屋で、やけにうまそうな酒の肴をつまみながらの二人のやりとりが、読んでいて心地よい。文章として直接語られない部分、いうなれば行間からにじみ出てくる部分が、なんともいえない心地よさを感じさせてくれます。それにしても川上弘美はなんて酒の肴をうまそうに描写するのだろうか、こちらも一緒に酒を飲みたくなってきます。
センセイはツキコさんの高校時代の国語の先生、いつも背筋をビシッとのばし、ジャケットを着て、黒い鞄を持ち歩いています。歳をとってもセンセイのような生き方が出来るのであれば、歳をとることも悪くはないなぁと思えてくるから不思議です。
ツキコさん役に小泉今日子、センセイ役に柄本明で2時間のテレビドラマも作られましたが、小説の雰囲気をうまく表現していて、こちらもまたおもしろかったです。
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センセイの鞄 川上弘美(文春文庫)
初めて川上弘美の作品を手に取った。本屋ではパラパラとめくっていたが、何となくファンタジーを書く人だと先入観を持っていて、なかなか購入できなかった。そういえば芥川賞をもらっていたんだと思い、踏ん切りをつけた。
月子さんと高校時代の国語の恩師センセイ(松本春綱)の話。年の差は30ぐらい。はじめから恋愛を表に出さずに、2人がいつも会う場所居酒屋が小説の中心舞台という設定には参ってしまった。そして、互いに気にかけているのに友達みたいな関係が続いている。教え子と教師ならこんなのありかなと納得していたら、月子がセンセイに告白し、少し紆余曲折があったあと正真正銘の恋人関係になる。
年取っても人間は恋愛に夢中になるものだから、年の差なんて関係ないとわかっていても2人を見つめる周りはどうだったのだろうかと思ってしまう。いつもの居酒屋で2人は客に「歳も離れているだろうに、いちゃいちゃしちゃってさ」といって絡まれる。それが周囲の反応。人のことを気にしていては生きてはいけないので、ほっといてもやっぱり気になる。周囲にはそんなふうに見られても2人は、つかず離れずの関係ではいけなかったのだろうかと考えてしまう。結局、恋は歳の差を乗り越えてということを川上さんは言いたかったのか。それとも純愛を表現したかったのかと疑問が残る。後者なら2人がそのまま居酒屋で茶飲み友達のままのほうが良かったと感じる。
私の率直な感想ですが、作品はお薦めです。
著者: 川上 弘美
タイトル: センセイの鞄