『ブラック・トムのバラード』ヴィクター・ラヴァル

H・P・ラヴクラフトの小説というのは実はほとんど読んでいなくって、でもそのわりには田辺剛によるコミカライズは読んでいて、そっちを読んでいるから読んだ気になっている部分もあったり、後続の作家によるクトゥルフ神話の物語のほうはちょっとは読んでいたりして、だから良い読者ではないのだけれども、そんな自分がこの本を読んで良いのかと思ったが読んだ。
せめて、元ネタとなった「レッド・フックの恐怖」くらいは読むべきじゃないかと思ったが、ネットで軽くあらすじを調べた程度で、それがいいのかわるいのかは別として、その程度の知識で読み始めたけれどもまあ問題はなかった。と思う。
H・P・ラヴクラフトの小説が好きだったけれどもH・P・ラヴクラフト自身が差別主義者だったということでそれに対する複雑な思いをぶちまけたのがこの物語の書かれたいきさつで、そのいきさつだけでなんだか切なくなる。とくに前半はその差別される側からの視点の物語で、お金欲しさに関わった出来事が異形の力と結びつくことを知ってそれでもそこから逃れられず、悲劇にまっしぐらな展開とその後に続く差別される側ではない人物からの視点とが組み合わさって、そうかそんなところに行きつくのかと思ってしまった。
とくにラストが印象深く、主人公の行動の内にある想いは世界を滅ぼす方向へと向かっていったという部分にやりきれなさを感じた。

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