その昔、ランダムハウス講談社という出版社があって、主に海外のミステリやファンタジー系の小説を翻訳出版してくれた会社だったのだが、SF系の本は出してくれなかったので僕はそれほど注目することはなく、しばらくして社名が武田ランダムハウスジャパンに変わり、『アインシュタイン その生涯と宇宙』という本においての翻訳のひどさで有名になったと思ったらそれから一年半後に負債を抱えて倒産してしまった。
倒産という形になったせいか、今でも書店に行けば、売れ残った文庫本が本棚にならんでいたりするのだが、新刊が出ることはもう無い。
最初の頃はそれほど注目していなかったこの出版社なんだけれども、この出版社から出ていた三人の作家の本に関しては注目していて、 その三人というのがケヴィン・ブロックマイヤーと、ベンジャミン・ブラックとアンデシュ・ルースルンド&ベリエ・ヘルストレムだった。
ケヴィン・ブロックマイヤーは文庫化されたら読もうと思っていたのだが、それも叶わぬ夢となってしまった。ベンジャミン・ブラックはジョン・バンヴィルの別名義によるミステリで、二作目が気になる終わり方をしていただけに三作目を楽しみにしていたのだが、これも叶わぬ夢となってしまった。三人目のというか実際は二人の共作なので四人といったほうがいいかもしれないが、それはともかくとして、アンデシュ・ルースルンド&ベリエ・ヘルストレムのミステリはこの三人の中でもとびっきり強烈な内容で、三作目まで順調に出ていたので四作目を期待していた。が、これもかなわぬ夢となってしまった……と思っていたら、角川文庫から新作が出た。
四作目ではなく、五作目というところがちょっと気になるのだが、まあ新作を読むことができただけでもありがたいと思うしか無い。
五作目の今回は、エーヴェルト・グレーンス警部の物語に予想もしなかった出来事が起こっていて、それは五作目でいきなり起こったことなのか、それとも四作目の途中で起こったことなのか、ちょっとこれはないよ、といいたくなるのだけれども、まあ仕方がない。四作目も是非とも翻訳してもらいたいものだ。
今回は二つの物語が平行的に進んでいき、一方はグレーンス警部の捜査の物語なんだけれども、もう一方がちょっと強烈的に絶望的な物語で、まあそれはこの作者の物語であればいつものことなんだけれども、それ故にバッドエンドまっしぐらっぽいフラグが最初から立ちまくっていて、それでいて前半における思わせぶりな行動が物語の後半になってつぎつぎとジグソーパズルのピースを当てはめていくようにきれいに一つの絵として浮かび上がっていく様はスリリングでページをめくる手を止めさせない。そして今回は意外な真相というよりも読者が期待する方向へと進んでいき、一方でグレーンス警部の物語の方も過去の三作とはうってかわって気持ちのよい結末へと進んでいく。読後感は非常に良いのだ。
ただ、今回描かれる問題は必ずしもスウェーデンという国ではなくても他の国でも起こりえる問題で、先の三作品と比べるとそこの部分で少しばかり物足りない部分がでてしまうのも確かだ。もっともそれをいってしまうのは贅沢かもしれないけど。
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