『凍原』と登場人物が重なる桜木紫乃のミステリ。
『凍原』では副題が北海道警釧路方面本部刑事第一課・松崎比呂となっていて文字通り松崎比呂が主人公で、今回は同じ第一課の大門真由が主人公となっている。でどちらにも片桐刑事が登場して主人公とともに事件解決にのりだすのだが、そこは桜木紫乃のミステリだけあって一筋縄にはいかない。たしかに殺人事件が起こって刑事が捜査に乗り出すのだが、その一方で主人公自身の物語も同じ比重で描かれて、そういう点では北欧ミステリっぽさもある。北欧ミステリの場合は社会問題が物語の中心にあるのに対してこちらは北海道という土地を舞台としてその地に暮らす人々の、いわば世界の片隅で贖いながらも生きる女性の悲哀が中心になる。
北原白秋の「他ト我」が冒頭に掲載されている。
二人デ居タレドマダ淋シ、
一人ニナツタラナホ淋シ、
シンジツ二人ハ遣瀬ナシ、
シンジツ一人ハ堪ヘガタシ。
引用したこの詩が物語全体の通奏低音のような感じで流れていく。海岸で発見された一人の老人の他殺死体から、この被害者の人生が浮き彫りになっていき、そこから彼と関わりのあった人たちの人生が少しづつ明らかになっていく。その人生は決して幸せなものではなく、かといって必ずしも不幸ばかりだったわけでもなく、そういった部分の描きかたが桜木紫乃は抜群にうまい。
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