裏表紙の文章を読んで驚いた。まさか、この巻で完結してしまうとは思わなかったのだ。
この題材だったら五巻くらいは続くだろうと思っていたので、二巻で終わってしまうことにちょっと嫌な予感がした。ゴッホが37歳という短い人生だったとはいえども、その人生を二巻で描くにはあまりにも短すぎる。
それでも気を取り直して読んでいくと、二巻半ばにして物語が急展開した。
ゴッホという人物に対して知っていることはそれほど多くは無いのだが、それでもこの物語で描かれるゴッホという人物は僕の知っているゴッホとは少し違う。もっとも、この物語がゴッホではなくゴッホの弟の物語で、そこで描かれるゴッホも弟の視点からのゴッホなので、僕が知っているゴッホ像と食い違っていても仕方がないと思っていた。
しかし、この巻半ばで起こった出来事は僕の知識の中にはない。一体どうなっているんだろうか、それともこの物語で描かれているのは僕が知っているフィンセント・ファン・ゴッホでは無かったのだろうか。と思ってしまった。
才能を持った兄と才能を持たなかった弟という兄弟間の確執と理解と愛情の物語だと思い込んでいたのだが、この作者はそんな物語を描きつつもさらにその一歩上を描いていた。そもそも、デビュー作からして叙述ミステリ的な読者に対する騙しの要素があって、それを思えばこの物語がこんな展開をするのもうなずけないわけではない。
ゴッホの人生を描くのではなく、ゴッホの人生を上書きしたのだった。
作者が仕掛けたネタがネタだけにちょっと力不足で物語を抑えきれていない部分もあるけれども、ミステリ好きかSF好きならば気に入ると思う。
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