『たまご他5篇 光用千春作品集』光用千春

『コスモス』が面白かった光用千春の短編集だけれども、その面白さは『コスモス』以上だった。
短編なのでそこで描かれている題材はバラエティ豊かなのだが、なんだろう、どれも同じという感じがする。いやそれは悪い意味ではなく、描かれているテーマが統一されているといったほうがいいのだろう。
表題作の「たまご」はとある工場で働く女性を描いた話なのだが、その女性は仕事をテキパキとこなしてしまうために他の人から余計な仕事を押し付けられたり、愚痴の聴き相手になったり、それでも主人公はそれに対して不満も言わず仕事をこなしていく。そんな彼女に恋心を抱いている青年もいるけれども、周りの人がお膳立てをしてくれながらも進展はしない。主人公を取り巻く他の人達はどんな人なのか明らかになる割には主人公がどんな人間なのかは明らかにならない。ただ仕事ができてそして誰に対しても親切。それだけだ。しかしやがて主人公自身の姿も明らかになるのだが、それでも彼女の本当の姿は謎のままなのだ。
「前後左右へ」は高校時代からの仲良しグループのなかのひとりが病気で亡くなってしまいその葬式が終わってからの会話から物語が始まる、こちらも亡くなった人も含めて四人の女性の姿が徐々に明らかになっていくのだが、仲良しグループであっても彼女たちはお互いに自分たちが考えているほどお互いのことを知っていたわけではないことを知ることとなる。

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