切ないぐらいに、恋をするように、うちに帰りたい
この一文を見かけてもうこれは買うしかないと思った。
僕の守備範囲外でもあったので津村記久子はいままで読んだことがなく、この先も読む機会があるかどうかはわからなかったが、読むことに不安はなかった。
読み終えて三浦しをんに雰囲気が似ている感じがしたけれど、かといって三浦しをんをそれほど読んでいるわけではないのであまりあてにはできない。
六篇の短編からなる短編集だけれども、最初の五篇は登場人物が共通していて、最後の表題作だけが登場人物が異なる。どうせならすべて登場人物が共通だったほうがまとまりが良かった、というか最初の五篇の登場人物のキャラクター造形が面白くって、せっかくそこまで描いてきたキャラクターを捨てて違うキャラクターの話を書いてしまうのはもったいない、と思ったのだが、そもそも最初からこの六篇で一冊にまとめる予定があったとは思えないので、偶然にこのような組み合わせとなってしまったのはちょっと残念でもある。
一見すると流行りのお仕事小説のようにもみえるけれども、中身は全然そんなことはなくとある会社で働く人々の日常を描いただけなのだが、それが予想外に面白い。
その人が応援するスポーツ選手あるいはスポーツチームは必ずと言っていいほどその後に怪我とか成績不振とか、それも並大抵のレベルではないほどの落ち込みをしてしまうので、なんらかの負のちからを持っているんじゃないかと主人公が考える「バリローチェのフアン・カルロス・モリーナ」がお話としては楽しいけれども、台風が近づいてきたために早めに退社して家に帰るというだけの「とにかくうちに帰ります」も面白い。
いや、この本に収められたすべての話がおもしろかったのだが、もう少し津村記久子を追いかけてみようかとおもった。
コメント