昨今のブームとなっている北欧ミステリの中で元祖というか始祖とでもいうべきシリーズが新訳で復刊した。
生憎と僕はこのマルティン・ベックシリーズは読んでいなくって、それというのもミステリが好きだけれども好きなのは本格ミステリでマルティン・ベックシリーズのような警察物には興味が行かなかったからだ。
で、このまま読まずに一生を終えてもよかったんだけれども、それはあくまで今のように北欧ミステリがブームになりさえしなかったらということで、ブームになってしまった以上、マルティン・シリーズも読んでおかなければなるまい。
しかし、新訳で最初に出たのはシリーズ四作目で、解説を読むとこの後は順番通り一作目からでるようなのだが、一番最初にこのシリーズ最高傑作と呼ばれる『笑う警官』を読んでしまってもいいのかという気もする。全十作のシリーズなので、販売戦略的には最初に傑作を持ってくるというのは仕方ないかもしれないが、いきなり四作目から読んでも楽しむことができるのだろうか。
という不安もあったが、結局読んでしまった。
結論から言うと、順番に読んだほうがやはり楽しめる。
今回起こる事件は派手な事件で、しかも被害者の中に警官がいたという状況なのだが、シリーズを最初から読んでいる読者の場合、この被害者の警官がシリーズキャラクタであり、さらには主人公がこの被害者の身元が判明する前に、その被害者が自分の相棒なのかもしれないとうろたえる様子など、やはりシリーズの中の一冊であるということで味わう事のできる描写があちらこちらにあるのだ。
一方で、この物語の時代背景が1967年と今から46年も昔であること、そしてスウェーデンという国が高度な福祉国家でありながらも、殺人事件は発生するし、まざまな社会問題も存在し、そしてなによりもその国で暮らす市井の人たちもまた常に幸福なわけではなく、もちろん常に不幸なわけでもないのだが、それでもやはり生きていくということの重さを感じさせる物語なのだ。
新訳が無事最後まで出ることを祈る次第だ。
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