『悪魔岬』笹沢左保

地味ながら笹沢左保の復刊が続いている。
笹沢左保がまだ存命で精力的に活躍中だった頃は僕はまだ笹沢左保が本格ミステリ作家という認識を持っていなかったので読むことはなかったのだが、その後、復刊がはじまったあたりから笹沢左保が本格ミステリ作家としてもかなりのものだったということを遅ればせながら知った。
しかしその一方で笹沢左保のミステリというと本格系よりもサスペンス系のほうが多い印象があったし、なによりも笹沢左保の小説に対してのガイド的なものが見当たらなかったので、気になったら読むという程度しかしていない。
で、今回の『悪魔岬』なんて、タイトルからして本格ミステリとは想像しがたいのだが、実はあっと驚くどんでん返しの本格ミステリだということを知ってさっそく読んでみた。
話の展開はもう二時間のサスペンスドラマを見ているかのようで、とある会社の社長令嬢が結婚している男性と恋仲に落ち不倫してしまう。家族はそれを踏みとどまらせようとするのだが、二人は心中を図ってしまう。しかし男性の方は死んでしまうが令嬢の方は助かる。もちろん物語は男性の方が死んでいたということは最初のうちは不明なままなのだが、それでも早い段階で事実は明らかになる。
問題はこの事件のどこに謎があるのかということで、これ以上なにも付け加えることはないだろうと思っていると殺人事件が起こる。しかしまったく接点のない人物が殺されるのだ。唯一の接点は探偵役の男が昔、令嬢にプレゼントしたサングラスケースがその場に落ちていたということだけ。
たしかに謎なのだがあまりにも手がかりななさすぎて、謎にしなくってもいいんじゃないかと思えてくる。
しかしそうこうして物語も終盤になってきたところでいきなりすべての出来事が一つにつながっていくのだ。
正直言えば手がかりが十分に出されていない、というよりも個々の謎の設定があまりにも乖離しすぎていて結びつけようにも結びつける気力が失われてしまうという部分が欠点ともいえるのだが、いやはや二時間ドラマのような事件の真相がこれほどまでに驚きを与える真相だったとは。

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