ミステリは好きだったがディック・フランシスの競馬シリーズは手を出してこなかった。
というのはやはり競馬というものに興味がなかったせいなのだが、一方でディック・フランシスの競馬シリーズは競馬の世界を舞台としているだけで骨格は冒険小説の骨格であるということは知っていた。
しかし、それでも食指が動かないのは動かないもので、数年前にようやく『興奮』を読んだものの後が続かなかった。
が、電子書籍化された作品が多数あり、半額セールになった機会に『大穴』と『度胸』と『本命』を買った。とりあえず競馬シリーズであれば『興奮』を含めてこの4冊は傑作の部類に入るからだ。
で、競馬シリーズとありながらもそれぞれのお話での主人公は全く別で基本的にディックはシリーズキャラクターを登場させていない。そんななか『大穴』は例外的にシリーズキャラクターとなる人物を登場させた作品だ。
イギリスの作品らしく、というか骨格が伝統的な冒険小説であるがゆえに、主人公のキャラクター造形がいかにも冒険小説の主人公らしい主人公で、怪我で騎手生命を絶たれ、妻には逃げられて、探偵会社に就職したものはいいけれどもそれは探偵会社の社長のお情けで、単に席を置いている程度という落ちぶれた状態。
しかしふとしたきっかけで自分のなかの矜持を取り戻し、新しい人生を切り開くためにとある事件を担当する。
今となっては多少古臭さを感じる部分もあるけれども、それでも騎手としては優秀だったけれどもそれ以外に特筆した能力だあるわけでもなく、腕っ節が強いわけでもない。犯人に拉致され殺されかけるし、そういった部分も含めて人間らしい主人公の再帰の物語は読んでいて心地よい。
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