『抱擁/この世でいちばん冴えたやりかた』辻原 登

中編「抱擁」と短編集『約束よ』をカップリングして一冊にしたもの。
ということでお得なのだが、この短編集の中に『遊動亭円木』の主人公、遊動亭円木が登場する話が3編あって、あいにくと僕は『遊動亭円木』を読んでいないのでおもしろさが理解できたのかはよくわからない。
もちろん読んでいなくっても楽しめたのは楽しめたのだが、事前に読んでいたらもっと楽しめたのかもしれないとおもうと少し残念なのだが『遊動亭円木』を探して読めばいいだけのはなしでもある。
「抱擁」はヘンリー・ジェイムズの「ねじの回転」を日本を舞台に換骨奪胎したもの。前田侯爵邸に小間使いとして雇われた主人公の視点で物語が語られていくのだが、そこで語られる物語はすでに起こった出来事で、その語り先は検事である。
それ故になにかしらの不穏な出来事が起こったのだという予測のもとに読むことになるのだが、徐々に明らかになっていく不穏な出来事がどのように語っている語り手に結びついていくのかはなかなか見えてこない。
もちろん最後はなにが起こったのか明らかになるのではあるが、ラストの一文でもう一度それがひっくり返される。
「抱擁」の衝撃とくらべるとあとに続く短編はすこしばかり毛色が異なるのだが、こちらもどこに連れて行かれるのかわからないままに物語に引きつられていくという読書を楽しむことができる話だ。

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