戸川昌子というと江戸川乱歩賞を受賞しているのにミステリ作家としての僕の戸川昌子の位置づけというのは官能ミステリの書き手という位置づけだったので若い頃は読むことがなかった。まあ高校生が官能ミステリに興味を持ったとしてもどうなのかとも思うのだが、仮に読んだとしても面白さは十分に理解できなかっただろうと思う。
それを思うと、歳をとってから読み始めるというのは悪くない選択でもあって、もっとも歳をとれば面白さを理解できるようになるのかというとそれもおかしな話なわけだが、実際に読んでみると面白いと感じることができたわけだし、高校生の頃に読んで面白さが理解できたかといえばできなかっただろうなあと思う。
表題作は既読だったので読み飛ばして、次の「嗤う衝立」はというと、片足を切断して入院中の男と血のつながらない彼の娘との禁断の愛から、その病院内で密かに行われている怪しげな新興宗教にも似た行為、それはアイラ・レヴィンの『ローズマリーの赤ちゃん』を彷彿させるような内容でもあり、一体どんなところにこの物語は着地するのだろうかと思いきや、ミステリとしては地に足のついた地点に着地して、意外なことにハッピーエンドでもあるのだけれど、かならずしもハッピーエンドではないところが侮れない。
「黄色い吸血鬼」はとある施設に血を吸われるためだけに住まわせられている男が主人公。ここで言われる吸血鬼は何かの暗喩なのかと思いきや、主人公たちは実際に血を吸われていて、吸血鬼たちが人類を支配しているような気配さえする……のだが、次第に主人公をとりまく怪しげな環境が明るみになりはじめ残酷な真相が明らかになる。
「塩の羊」もなかなか嫌な話で、フランスのモン・サン・ミッシェルを彷彿させる修道院が舞台。行方不明になった娘の行方を追いかけていったらとんでもない真相に行き着いたという話だが、チーズに○○をまぜると美味になるというのは本当なのだろうか。
「ブラック・ハネムーン」はあざとさがあるけれども戸川昌子版「セメント樽の中の手紙」という趣もあって、まあとにかく後味の悪い話だ。
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