前田司郎は『夏の水の半魚人』と『恋愛の解体と北区の滅亡』を読んだことがある。
去年出た『異常探偵 宇宙船』はそのうち読もう読もうと思いながらまだ読んでいない。そうこうするうちに短編集が出てしまった。
書店で目にしてぱらぱらと目次を眺めると「ウンコに代わる次世代排泄物ファナモ」というタイトルが目に入った。『恋愛の解体と北区の滅亡』に収録されていた短編だ。どうやら新作ではなく文庫化のほうらしい。
で、短編集ならば気軽に読むことができるだろうと思いそのままレジに持っていって買ってしまう。
「ウンコに代わる次世代排泄物ファナモ」は読んだことがあるけれども内容はすっかり忘れてしまっていて、まあそれはいつものことなんだけれども、そういうわけで、既読作品はない本なので得した気持ちになる。
最後に収録された「エベレストの方へ」は小説ではなくってエッセイ、多分そうだと思うのだが、それ以外の話はどの話も奇妙な話だ。「ウンコに代わる次世代排泄物ファナモ」というタイトルからしてそれ以外のなにものでもないと想像がつくけれども、しかし奇妙な話だからといってまったく想像の彼方の奇妙な出来事が起こるわけではなくって、登場する人物はわりとまとも、と言いたかったけれどもやっぱりまともじゃないか。でも彼らの言動は理解できるし、一部は共感できる。ちょっとだけ僕たちの住む世界と位相が異なっているだけなんじゃないか、そんな感じだ。
「部屋の中で」は恋人にゲップを食べさせようとする男の話だ。ゲップを食べさせようとする時点で位相が異なっているどころか根本的におかしいだろうと思うかもしれないが、男の論理はそれなりに筋が通っている。しかしこの話の驚きはそんなところにあるのではなく、終盤になっていきなり語り手が登場することだ。この奇妙さってのはエリック・マコーマックに通じるものがあるんじゃないか、そんな気がする。
コメント