『象牙色の哄笑』を読み終えたのでその勢いに任せて長いこと積読だったロス・マクドナルドの短編集『ミッドナイト・ブルー』を読んだ。
ダシール・ハメット、レイモンド・チャンドラーと比べるとロス・マクドナルドは短編が少ない。リュー・アーチャー物の短編は全部で9編。商業出版デビュー作の「女を探せ」から始まって最後の短編「ミッドナイト・ブルー」まで、そのうち5編がこの本に収録されている。
レイモンド・チャンドラーの探偵、フィリップ・マーロウの場合、訳者によって人称が俺だったり私だったりと変化するが、リュー・アーチャーの場合も同様で、俺だったり私だったり。この短編集の場合は小鷹信光ひとりで翻訳しているが、書かれた年代によって、初期の作品では俺、後期では私と変化させている。
長編と比べると短編の方はものたりなさが残るが、中編としての分量がある「運命の裁き」は後に『運命』というタイトルで長編化されただけあってか面白い。実際には更にその前に「怒れる男」という短編が書かれていたそうだが、こちらは未読なのでここでは触れない。
長編の『運命』も積読だったので、どちらを先に読むべきか悩んだが、ここは発表順にそって先に「運命の裁き」を先に読んだ。
精神病院から脱走した男がアーチャーを訪ねてくるという発端から、その男の一族にまつわる事件とその顛末。そして意外な犯人という部分はこれはこれで完成した形であるのに、長編に書き直したのはどういう理由だったのだろうか。それに関しては『運命』の方を読んでみなければわからないだろう。
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