『P.S.アイラブユー』谷川史子

電子書籍で無料だったので読んでみた『おひとり様物語』が面白かったので気になる作家になった谷川史子。
で、とりあえず『P.S.アイラブユー』は一巻で完結している短編集だったので読んでみた。
大きく分けて二つの話が載っている。
一つは前編・後編、いや視点人物を変えた形の表題作。前編では翻訳の仕事をしている女性視点の物語で、かつてはプロポーズをしてくれた男性がいたのだが、翻訳家になりたいという夢を捨てることができなかったために彼との結婚を諦めて翻訳家として活躍している主人公。付き合っている人はいないけれども気ままな一人暮らしを満喫している。調べ物をするために出かけた図書館で一人の少年と出会う。自由奔放、無邪気な彼に翻弄されながらも子供と向き合うことに楽しさを覚える主人公。しかしショタコンの方向へと話が進むわけではない。彼の母親が登場することによって、自分が家庭を持ち、母親としての人生を捨ててしまったことに気がつく。それでよかったのか。自分はなにか大切なものを捨ててしまったのではないかと悩む。
しかしその一方で少年の母親は純粋に彼女の翻訳家としての活躍を凄いことだと褒める。自分が選ばなかった人生は選ばなかっただけであり、今の人生と比較する、比較してしまいがちになることもあるだろうけれども、そうしてしまってはいけないのだ。
一方後編は少年の視点の物語となる。
前編では無邪気なふうに見える少年も彼なりにいろいろと悩み、そしてまだ彼は気が付かないけれども、恋をする。
いや本当にうまいなあと思う。
残りの3編は登場人物は重ならないけれども201号室の部屋に住む人々を描いた一連のシリーズで、心の機敏さの描き方がうまい。

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