ここのところ定期的に復刊が続く笹沢左保。
僕がミステリ小説を読むようになったころの笹沢左保はミステリ作家としてよりも時代小説作家としてのほうが有名だったせいもあって、まったく読まずに来ていた。復刊されるようになって初めてミステリ作家としての笹沢左保を認識するようになったのだが、リアルタイムで読むよりも今、こうして改めて読むほうが面白く読むことができるかもしれない。
というのもやはり昭和という時代が物語の中に濃く色づいていて、それが今読むとちょうど心地よい色合いになっているからだ。もちろんそう感じるのはあくまで僕自身のことなので、他の人もそうだとは言わない。
この本もそんな書かれた当時の昭和の時代が描かれている。
姉の遺書から始まり、その姉の勤めていた会社の労働騒動、姉の恋人がその会社の社長の息子であったことから労働騒動に巻き込まれるような形になって心中へと進まざるを得なくなっていく事柄が描かれていく。
姉は失踪し行方不明となるが数日後、姉の恋人の遺体が発見される。睡眠薬による自殺とみなされるが、姉の方の遺体は発見されない。
やがて、恋人の母親、そして父親の死が続き、捜査の行方は行方不明の姉による犯行ではないかという展開になるのだが、妹が事件の真相解明に乗り出すこととなる。
謎の多重解決や、現場の見取り図等、予想外に本格ミステリとして整っていて驚くのだが、本格ミステリとしてオーソドックスな作りなせいで、犯人も意外な犯人で、意外な犯行動機であるがゆえに、意外な犯人が誰なのかと考えると、犯人を当てるのはわりと容易い。
が、犯人の自供の中に登場するタイトルの「人喰い」の意味も含めて、昭和の時代を描いたミステリとして傑作だと思う。なにしろ1960年に書かれた話なのだ。
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