『ふたえ』白河三兎

若い頃はミステリ小説を読むときには犯人が誰なのかとかトリックはどうなのかを推理しながら読むということをしていたけれども、歳をとるにつれてあまりそういう読み方をすることはしなくなった。当てようとしても当たらないという理由もおおきいけれども、謎がきれいに解かれていく過程を読むというほうが楽しめるからでもある。だからといって犯人を当てようと思わないというわけではないけれども、あまりそういったことに比重をおかなくなったのだ。
というわけで、素直に読んでそして作者のたくらみにまんまと騙されてそしてどういうふうに騙されたのかがきれいに解明されていく物語を読むとうれしくなる。
この物語もミステリ小説なので謎があるのだが、その謎の絡み具合がよくできている。しかしよくできすぎると作り物めいて作為的な部分がしらけてしまうのだがこの物語の場合、青春小説であるという部分でこれまたうまくカバーできている。
いわゆるスクールカーストから外れて生きている、クラスの中のひとりぼっちの生徒たちに焦点をあて、そこに修学旅行というイベントを絡ませる。地味で目立たなかった男性生徒は途中で思わぬ洞察力を発揮させ、彼が中心となってこのボッチ達集団が様々な日常の謎を解いていく。というような話になるのではないかと、第一話を読み終えた時点ではそう思ったのだが、そんな展開にはならなかった。タイトルこそ『ふたえ』と何を意味しているのか曖昧で、あまり印象に残らないタイトルだったのだが、そんな単純な話ではなかった。読み終えてみるとこのタイトルの持つ曖昧さは多重に意味をかけ合わせていたことがわかり、物語の構成も含めてこれしかないというタイトルに気づく。
その一方で、とてつもなく切なく悲しい物語でありながら読後感は爽やかで気持ち良い。

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