かつて、魔術師たちが集まる魔術師ギルドが存在していた。
しかし、人類の発展とか世界平和といった方向にはその力を使わず、人類の破滅に結びつくような魔導の研究を行っていたため、テロ組織として認定され、人類の科学を結集した騎士団によって壊滅させられ、魔術師たちは捕らえられ、処刑された。かろうじてわずかな魔術師たちだけが生き延び、あるものは逃亡生活を送り、あるものは騎士団の顧問として招聘されあるものは、騎士団の観察下に入った。
主人公は自らの体をゴースト化することのできる魔術師。そのため処刑することはおろか捕まえることも不可能である。しかし、魔術師ギルドがなくなったために生きる目的を失い、騎士団の観察下にいながら、日々、無気力な生活を送っている。
生きることの虚しさとそれでいて死ぬことのできない体。ひょっとしたら死ぬ方法があるのかもしれないけれども、主人公は死ぬことは考えていない。生きることの楽しみを探しはするけれども、しかし、かつて魔導の研究に明け暮れた日々の楽しさと同レベルのものを見つけることなどできないという悟りのせいか、主人公が見つけるものは人形に話しかけることとか食事とか、ささやかな楽しみしかない。燃え尽きてしまったあとの人生なのである。
かつて燃え尽きた経験のある身としては主人公の気持ちというかこの雰囲気というのがよく判る。
毎日が味気なくモノトーンの日々なのだ。
人類を滅亡に導くかもしれない危険な魔導書の存在とか、それを騎士団の手から奪おうとする魔術師との戦いとか、同じく人類の破滅に導く危険な魔法の発動といったスペクタクルな展開になりそうな話に進むのだが、スペクタクルとは正反対の静謐で穏やかに物語は進んでいく。
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