いや、長かった。
といっても悪い意味ではない。なにしろ雑誌連載が隔月刊はおろか季刊でもない4ヶ月に一回というゆっくりとしたペースで連載していたので、一年経っても3話。単行本化する場合でも4話必要なので単行本は一年以上経たないと続きが出ない。もちろん、他の作家の漫画を見回せばそれ以上に続きが描かれない漫画もあるし、ゆっくりとしたペースで出るということそのものは必ずしも悪いことではない。
冬目景の『イエスタディをうたって』も短期集中連載を変則的に繰り返していたので完結までに長い時間が経ったが読後感としては、というか長いと感じる感じ方が近い。
物語の中で流れていく時間と連載との時間がゆったりとしていて、その時間の流れが心地よいのだ。
『ラヴァーズ・キス』と登場人物を同一とする形で始まったこの物語もいつしか『ラヴァーズ・キス』から外れて独自の世界へと移っていった。なにしろ12年という時間が経過しているのだ。1巻と比べると絵柄も変化していっている。
しかし、それさえも心地よい。吉田秋生の次回作がどんな物語になるのかわからないのだが、今のこの絵柄を継承していくのかそれともまた少し変化していくのか楽しみである。
そしてこれだけ作中の時間の流れと実際の時間の流れに差がでてくると連絡手段にも変化が見られ、いつしか登場人物たちはスマホでLINEを模したツールでコミュニケーションを取るようになっていった。最初はスマホすらなかったというのに。
物語としては、そういう場所へと着地したのかと思う。腹違いの妹、すずが三姉妹といっしょに鎌倉に暮らすようになるところから始まり、そして今度は自分の意志で鎌倉を出て自分自身の未来に向かって進み始めるところで終わる。これ以上ないくらいにきれいな終わり方だ。そしてなによりも主人公であるすず一人に焦点を当てるのではなく、並行していくつもの物語がすすむ群像劇として多数の登場人物の新しい出発を描いているあたり、よくこういう描き方ができるものだなあと感心してしまう。
素晴らしいのは物語だけではない。きっちりとした線の絵柄からラフな線の絵柄になって、以前のような絵の魅力が無くなったと思っていたら最後の最後に描かれるすずのアップの絵にやられてしまった。最後にこんな絵を見せるのは卑怯だ。
あとは、作者がインタビューでも語っていたようにアライさんは最後まで顔を出さなかったけれども、読者サービスだろうか、最終回には少しだけ登場して口元と髪型は判明する。ひょっとしたら次の作品でもひょっこりと登場するかもしれないなあ。
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