突然大発生した新型インフルエンザ、グルジア風邪によるパンデミックで人類の大半は死亡してしまった。
物語の冒頭で、アーサーという主演俳優がシェークスピアの『リア王』を演じている最中に倒れ死亡する場面から物語は始まる。
しかし、ここでおかしいと気づく。というのはその数ページ前にある登場人物一覧表にはこのアーサーが一番最初に載っているのだ。
通常、登場人物一覧の一番最初というのは主人公の位置である。主人公であるはずのアーサーが倒れる場面から始まるのはいいとして、たぶん、助かるのだろうと思うのだが、そんな読者の期待などお構いなしにアーサーは死亡する。そこからしばらくはグルジア風邪によって次々と人が死んでいく様子が描かれるが、淡々と無慈悲に描かれていく。そして物語は二十年後に飛ぶ。
人のいる場所から場所へ、旅をしながら劇を演じる旅の演劇団が視点となる。文明を維持できなくなるほどのたくさんの人が亡くなったが、人類は滅亡してしまったわけではない。とはいえども楽観できるほど復興したわけでもない。その日一日を生き延びるだけで精一杯でもある一方で、生きることができればそれだけで十分だというわけでもない。娯楽も必要なのである。
旅の演劇団の女優の一人キルステンはアーサーの死のさいに子役俳優として同じ舞台に立っていた。そしてキルステンは今も、アーサーからもらった漫画、「ステーション・イレブン」を大事に取っている。
物語は現在の物語と、過去の物語とがモザイクのように組み合わさりながら描かれていく。「ステーション・イレブン」を描いたのはアーサーの最初の奥さん、そして奥さんとアーサーとの出会い、別れ、二番目の奥さんの話、旅の演劇団が遭遇した預言者とその信者の村の話。ひとつの関わりが緩やかに別の関わりと結びつき、描かれた物語はタペストリのようになっていく。
ラストはかすかな希望となっているが、そんなものさえ必要もない。ただそこにある物語の繋がりが心地よい。
『ステーション・イレブン』エミリー・セントジョン・マンデル


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