『脳天壊了―吉田知子選集1』吉田知子

  • 著: 吉田 知子
  • 販売元/出版社: 景文館書店
  • 発売日: 2012/12/19

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読むのが十年くらい早すぎたか、それとも十年遅かったか。
一読しただけではどう受け止めたらいいのかよくわからないのが表題作の「脳天壊了」だ。
どことなく、残雪の書く小説にも雰囲気が似ているのだが、残雪の場合は不条理はあっても不気味さは無い。それにくらべて吉田知子の書く小説の不気味さは一体何なんだろうか。吉田知子とフリオ・コルタサルとを比較していた人がいたが、虚構と現実、二者の視点といった二つの要素が一瞬にしてまじりあったり、転換したりしてしまう部分はそうかもしれない。
不条理でかつ不気味というてんで、まどの一哉の作品にも通じるところがあるんじゃないかとも思ったのだが、かたや活字、かたや漫画ということで、やはり活字として読む場合とダイレクトなイメージとして受ける絵でもって見る場合とでは印象が異なってくる。それにまどの一哉の場合は登場人物を完全に突き放していないのにたいして吉田知子の場合は完全に突き放しているところが大きく異る。
その一方で、「寓話」「東堂のこと」といったある特定の人物の生涯を淡々と書き連ねていく話を書いたりするから気を休める暇もない。とくに「寓話」などは、そこから何かしらの教訓めいたものを見出すことは難しくはない。それどころかいくつも見つかる。それ故に、それらが本当に作者が意図したものなのかという不安、さらには題名に仕掛けられた罠であり寓話でもなんでもないのではないだろうかとさえ思ってしまう。
そんなわけで表題作は手に負えなかったのだが、「ニュージーランド」はわりと楽しめた。
コニー・ウィリスの『航路』における一方の視点の物語を抜き出して冗長的な部分をそぎ落とし、ぎゅっと圧縮をかけたらこんな話になるんじゃないかな。

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