ぼくのミステリ・クロニクル

東京創元社の編集者、戸川安宣の回顧録。
なかなかこういうことを書いてくれる編集者というのは少ない、ような気もするが、ミステリやSF方面の編集者の場合はわりと多い気もする。
東京創元社に入るまでと入った後と辞めた後と、全部で3つの章に分けられているが、なんといっても圧巻は入った後、つまり編集者として活躍していた時期の話だ。
もちろんそれ以外にも、ちょっとだけ耳にしていた、東京創元社が過去に二度倒産していたという話もなかなか興味深い。
倒産に関してはさておき、エーコーの『薔薇の名前』が文庫化されない理由とかは、そんな理由で文庫化されないのかと思ってしまった。翻訳者の河島英昭が文庫化のために訳の見直しを徹底的に行なっていてそれが延々と続いているせいだったのである。
ガルシア・マルケスの『百年の孤独』が文庫化されないのは違う理由だろうけれども、そういう理由ならば、いつまでたっても出ないはずである。
などと書いていたら河島英昭が亡くなられてしまった。
昔からのファンであればよく知っているジャンル別のマークが無くなった理由とか、そのほかにも本人が語ってくれなかったら知らなかったことばかりで、読んでいてその当時のことが思い浮かび、同時に懐かしさも感じる。
その一方で、後半になるにつれて物故した人の話題が多くなり、鮎川哲也や、都筑道夫の最晩年の話は切なくさせられる。
老いるということは肉体だけではなく頭も老いていく。
肉体的な衰えを見るのもしのびないが明晰だった精神が老いていくのを見るのは切ない。

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