菜時記 皐月/丙辰

統合失調症を発症していらい、人の大勢いる場所を恐れるようになった妻は、買い物に行くことも困難になった。
だから僕は妻の代わりに一週間分の食料品や日常品を買うために週末、一人で買い物に出かける。
妻はときおりこんなことを言う。
「私のような人間と結婚してあなたはハズレを引いてしまったわね」
そんなことはないよ、と答えるのだが、この言葉が妻に届いているのかどうなのかはわからない。
ただ、届いていなくても、この言葉が僕の本心であることに変わりはない。
菜時記 皐月/丙辰
キャベツが1玉108円と安い。もっとも二人家族の我が家では1/2カットでも十分なのだが、1/2カットは値段がどうかというと78円とそれほど安くはないので、1玉で買うことにする。問題はどれを買うかなのだ。いろいろと悩んで納得のいくものが見つかったので、かごに入れる。
長ネギは相変わらず2本で213円だったので次の店で買うことにするのだが結果としてこれが大失敗だった。
もちろんこの時点ではそんなことなどつゆ知らずなので、アボカド1個、138円だけれども程度の良いものが見つかって喜んでいたりする。
地元野菜コーナーではそら豆が216円、それなりの分量なので気を良くする。個人的には焼いて食べたいところなのだが、妻は焼いたものが好きではないので塩ゆでで食べることになるだろう。
練り物コーナーではレモン風味のサラダスティック、ようするにカニカマのレモン味、なるものが売られていたので試しに買ってみる。
レジで精算すると先週よりも高めとなる。
続いて次の店へ。
トマトは4個で214円。
長ネギは3本で321円。自分の目を疑ったのだが間違いではない。
こんな値段だったら最初の店で買っておくべきだったと後悔して、もう一度戻って買ってこようかとも思ったのだが、3本で321円である。一本あたり107円。2本買うところを3本買ったと思えば1円の損である。とりあえず自分自身をそう納得させる。

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