『火星の人』の第二作ということで必然的に期待をしてしまう。
もっとも、デビュー作がとんでもなく面白かったからといって次の作品も同じくらい面白いものになるのかといえばそれは勝手な思い込みでしかなく、多分、前作と同じ傾向の物語を期待してしまうというだけで、作者の方からすれば次の作品はまったく違うものを書いてみたいという気持ちもあるかもしれないわけで、そのあたりが食い違ってしまうと不幸が生まれる。
というわけであまり期待しないように読み始めてみたわけだが、なかなかおもしろかった。
ここではっきりとものすごく面白かったと書かないのはひとえに主人公の性格的な部分からくるものが大きい。
そもそも主人公は密売人で、さらにお金のために犯罪行為も行う。彼女が根っからの悪人として描かれていたのであればそういうものだと思うだけなのだが、悪人というわけでもない。彼女が犯罪行為を行うのはただ単にお金の為だけであって、それでいて倫理観がないというわけでもない。終盤になってさらにとんでもないことをしてしまうのだが、そのことに対して罪悪感があまり感じられず、ようするに主人公に肩入れすることが中途半端に難しかったのである。彼女が26歳という年齢ではなく10代の少女であったのならば、知識と経験の無さからくる無邪気さと思うこともできたかもしれない。
しかしそれを除けば、彼女のリベラルさはハインラインの小説の主人公を彷彿させるし、なによりも科学と技術を中心として物事を組み立てていく運びかたは前作と同様、安心して読むことができる。
しかし、この話を野尻抱介が書いたとしたらもっと面白くなったのかもしれない。
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