ミステリ要素の乏しかった前作と比べると、思いっきりミステリ要素が満載で、そして謎に満ちた物語になっている。
二つのパートが交互に描かれるのだが、どちらの語り手も同じ人物。現在進行形の物語と、過去の物語が交互に描かれるのだ。そして現在進行形の物語は冒頭から非現実的な展開を見せる。
深夜に酔っ払ってアパートに帰ってきた主人公が気がついたら砂漠のど真ん中、パジャマ姿で横たわっていたというのだ。さらに、空から電話ボックスが落ちてきて、そしてその電話ボックスにある公衆電話から緊急通報ボタンを押すことで119番に電話をかけることができる。
どう考えてみても非現実的な状況で、これがSFかそれともファンタジー方面への物語展開をするのであればそういうものだと納得しながら読み進めることもできるが、少なくともそういう方面へと進む可能性は少ない。
となれば、主人公にどのようなことが起こっているのかというところは想像がつくのだが、想像がついたからといって謎がすべて解明されるわけではない。
そこからさらに殺人事件らしきものが起こっている可能性が示唆され、そして主人公の過去にまつわる謎が提示され、と、大小さまざまな謎が少しづつ見え始め、そしてそれと同時に、この物語がかならずしもハッピーエンドには向かって行かないという可能性が徐々に大きくなっていく。
主人公の身に起こった不思議な出来事がかならずしも合理的な解釈でもって語られるわけではないのだが、現実の世界で主人公の身に起こった出来事はきれいに解釈され、それは切なく、悲しいのだけれども、安易なハッピーエンドの物語には無い余韻がある。
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