今回は、今までの作品にあったようなミステリ的な要素は乏しい。だからといって謎が全くないのかといえばそんなことはなく、冒頭からすでに不思議な現象が起こり、そして二人の語り手の女性がどのような未来へと進むのかという謎に関して、ついつい引きこまれてしまう訴求力がある。
白河三兎の物語においては、殺人事件の犯人が誰であるのかとか、そこで起こった事件の隠された意外な真相といったものは白河三兎のミステリの世界においては重要な要素を占めるわけではなく、主人公たちの未来がどのようになるのかということが強烈な謎であり、そこに引きこまれてしまうのだ。
語り手のうち一人は物語の冒頭で亡くなり、何故か観覧車の地縛霊となってしまう。もう一人は地縛霊となった彼女の友達なのだが、こちらのほうも社会とうまく共存することができない不器用な生き方の人物として描かれている。どちらも幸せになることができないのだ。
そしてやはり白河三兎が描くこの物語の結末も、読者が想像、というか期待するような方向へとは向かわないし、物語において主人公たちもけっして幸せにはならない。しかし、それでも、切なさと、悲しさの結末でありながらも未来へと向かう道が見える結末だから読後感は悪くない。
ただ、やっぱり、今回は今までの作品とほどミステリらしさがないので、期待してがっかりしてしまう人が多いかもしれない。
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