折りたたみ北京

中国SFアンソロジーだけれども中国語からの翻訳ではなく、アメリカの作家ケン・リュウが英語に翻訳したアンソロジーを翻訳したものだから久しぶりの重訳だろうか。
SFマガジンではごくたまに中国SFが翻訳されることはあるけれども、一冊の本として出るということは殆どないので、貴重な本でもある。
序文があって、さらに簡単な作家紹介があるのでいたれりつくせりな内容になっているが、肝心の短編の方もバリエーション豊富で面白いものばかりだ。
最初の陳楸帆の「鼠年」でまずやられた。
ミュータント化した鼠の駆除のために軍隊に入った青年の話なのだが、ミュータント化した鼠の正体はともかくとしてそこに至るまでの閉塞的な社会背景といった部分がある種のリアルさをともなって、アイデア主体の物語ではないところが気に入った。
同様に馬伯傭の「沈黙都市」も言論統制されたディストピア社会の話で閉塞感満載。ジョージ・オーウェルの『一九八四年』ではニュースピークという新たな言語を作ることで言論統制を行っていたが、ここでは禁止ワードをどんどんと追加していくのではなく使っても良い言葉だけを設定し、問題があればどんどんと使える言葉を減らしていくという形をとっている。
表題作の「折りたたみ北京」は映画『ダークシティ』を彷彿させる話だが、人海戦術でそれを作ってしまうという部分が中国らしい。
巻末の「神様の介護係」は一風変わってユーモアのある話。なにしろある日突然2万隻もの宇宙船がやってきてそしてそこから20億人もの神様が地上に降りてくるという話だ。しかし神様といってもあくまで造物主としての神様で文明としての神様文明は老年期を迎えて知識も失われ、かつて自分たちが作った機械におんぶにだっこの状態で、しかもその機械が寿命を迎えようとしているのでその前になんとかしようと、太古の地球に生命を芽生えさせたという顛末。ようするに自分たちの介護をしてもらうために人類は誕生したというわけだ。
ちょっと懐かしい感じもするSFなのだが、しっかりと現代的でもあって、その匙加減がちょうどいい。

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