ホームズと推理小説の時代

全然知らない作者で、今までにミステリに関して何らかの本を出したことのない人の書いたものだったので少し不安でもあったが、書店でパラパラとめくってみてホームズに関する部分は全体の半分以下でイギリスだけではなくアメリカのミステリにも言及があったので買ってみることにした。が、前書きで堀啓子の『日本ミステリー小説史』を褒めているので少し不安になる。
内容に関してはコンパクトにうまくまとまっていると思う。取り上げられていない作家も多数いるけれども、過不足なく取り上げて言及しようとすれば文庫本一冊では無理な話だ。
とはいってもそもそも無理な話を文庫本一冊にまとめたのだから読んでいて疑問に思う部分も出てくる。良くも悪くも個人の感想を一冊の本にまとめたものとして受け止めるのがいいのかもしれない。ということでは興味深い感想も多いというか仰天するような感想が多くて自分の読み方が間違っていたのだろうかと思いなおしたくなりそうになる。
読んでいて違和感を感じるのは取り上げられた小説のタイトルだ。チェスタトンの章では<ブラウン神父>シリーズがもちろん取り上げられているのだが、
『ブラウン神父の無垢』
『ブラウン神父の知恵』
『ブラウン神父の懐疑』
『ブラウン神父の秘密』
『ブラウン神父の醜聞』
ブラウン神父というと東京創元社版が有名だと思うのだが、だとすると『ブラウン神父の無垢』ではなく『ブラウン神父の童心』になるはずだ。しかしこの本では「童心」ではなく「無垢」となっている。ではどこの出版社で出たものかと調べてみたのだが、これが見つからない。かろうじて近いのはハヤカワ・ミステリ文庫の『ブラウン神父の無垢なる事件簿』だが、だったらそのとおりに記述すればいいのだが、そうでもない。それとも『ブラウン神父の無知』を間違えて「無垢」としたのだろうか。三作目も疑問で『ブラウン神父の懐疑』となっているので、これは新潮文庫版になるのだが、だったら一作目は『ブラウン神父の純智』としたほうがスッキリとする。
もっとも、僕もエラリー・クイーンの悲劇四部作は前半は新潮文庫、後半は角川文庫で買ったので自分の持っている本の題名をそのまま使ったとすれば出版社で統一したタイトルを記述しなかったと好意的に解釈もできるのだが、それでも一作目だけは謎だ。
その他にレックス・スタウトの傑作を挙げているのはいいのだけれども、『腰ぬけ連盟』が『臆病者連盟』になっていたり、『編集者を殺せ』が『編集人の殺人』となっているのが気になる。
ネロ・ウルフ物の代表作といえば『腰ぬけ連盟』で、『腰ぬけ連盟』といえば僕が知っている限りで邦訳はハヤカワミステリもしくはハヤカワ・ミステリ文庫とペガサス叢書の世界推理小説名作選の三冊で、どれも『腰ぬけ連盟』というタイトルだ。
いったいどこから『臆病者連盟』というタイトルを持ってきたのだろうか。この章の最後でネロ・ウルフの謎を挙げているのだが、僕にとって一番の謎はこの『臆病者連盟』だった。
巻末に参考文献が挙げられているが、丸谷才一の『快楽としてのミステリー』の部分では、「書評部分は選択にやや男性読者寄りの視点」などというコメントが書き添えられている。
どの部分がそう感じたのか本文の方で書いてもらいたかった。

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