桜木紫乃の新境地と書かれている。
その一方で長編心理サスペンスと書かれている。
読み終えてみると、どちらも間違いではない。
新境地というのはその通りでもあって、それまでの桜木紫乃の小説とは少し味わいが異なる。
かといって描かれている世界は北海道を舞台とした男女の物語で、けっして明るい話ではない。いやむしろ、読んでいて重く苦しい。ほっこりとするとか、感動して涙がでるとか、励まされるとか、元気がでるといった物語ではない。
けれども、読んでいてイヤになることはない。
明確な主人公というのがいない。視点となる登場人物は複数で、視点人物達はだれもが等価で、そういう点では群像劇といったほうが近いかもしれないけれども、感情移入しづらい人物ばかりでもある。
しかし、その一方で、誰もがどこかにいそうな、いや、登場人物の感情、行動に現実味があって、多分それはリアルというよりも、生きているという重みという部分に比重が大きいのだろう、重さを感じるからリアルで、そして苦しいのだ。
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