世の中にはいろいろな本があるのだが、実際には存在しない本の序文だけを集めた本とか、存在しない本についての書評を集めた本とか、存在しない物に関して集めた本とか、そういった存在しないをテーマにした本がある。そもそも物語からして存在しないことについてあたかも存在しているかのようなふりをして語っているのだから珍しいことでもないのかもしれない。
中には『読んでいない本について堂々と語る方法』なんていう、存在していながらも読まずに語ろうとする本もある。
かくいう僕自身もかつて、存在しない技術をでっち上げてあたかも存在するふりをして語ったことがある。もちろんそれは嘘であることを楽しむためのもので、騙そうとしたわけではない。
松崎有理の『架空論文投稿計画』もそんな一冊で、この本のなかで存在していないのは論文である。
架空の論文をでっち上げるという話だ。
論文というのは通常、書き上げた後でそれを発表する、というか発表することが目的でもあるのだが、発表するにあたって査読という第三者のチェックが入る。つまり中身が間違っていないかどうかの確認だ。この物語ではこの査読のシステムが破綻しているのではないかという危機感を持った主人公たちが架空の論文をでっち上げて査読システムが機能しているのかを確かめるということを始めるのだが、これが査読をすり抜けて論文誌に掲載されてしまう。つまりシステムが機能していないのである。
これは由々しき問題であるということに気がついた主人公たちは次々と嘘八百の論文を作り上げていくのだが、この本のおもしろいところは実際にその論文が掲載されている点だ。
縦書きのページを読んでいくといきなり90度左回転させないと読むことができないページが現れる。論文が通常は横書きでかかれていることから縦書きと横書きとをページの境目なしに混在させているためにそんな奇妙なレイアウトになっているのだが、そういった凝ったページレイアウトも魅力的なのがこの本である。
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