かっこいいタイトルの本に出会うとちょっとうれしくなる。中身も見ずにそれだけで買ってしまいそうになる。
とはいっても、かっこいいというのは主観的なものだから、100人中100人がかっこいいと思うタイトルというのはそうなかなかとあるものでもない。
それはともかくとして山田風太郎の『夜よりもほかに聴くものもなし』はかっこいいタイトルだと思う。ポール・ヴェルレーヌの詩から取られた一文なので山田風太郎の完全なオリジナルというわけではないが、それでも良いタイトルだと思う。
タイトルだけではなく物語の方もタイトルから印象つけられるようなもの悲しい話で、老刑事がかかわった10の事件を描いた短編集だ。
どの話も、犯行動機が切なく、犯人に同情したくなる事件で、それ故に物語の最後は、老刑事が同じセリフをつぶやいて終わる。
「それでも」
「おれは、君に手錠をかけなければならん」
それぞれの事件で犯人が行なった行為は殺人でそれは決して許されるものではない。しかし、殺人を犯さなければならない動機は老刑事もふくめて理解できるもので、心情的には許してやりたくなる。だけれども主人公は刑事であり犯人を見逃すことはできない。最後のセリフは老刑事の苦渋の末の言葉なのである。
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