表紙を見てまず買うことに決めた。
インパクトのある写真である。
写真はモノクロなので、黒く塗られた体に白い線が描かれているように見えるが実際は黒ではなく、赤レンガ色だったようだ。黒だとしてもインパクトのあるのにこれが赤れんが色だったとなるとさらにインパクトがある。その上に頭全体を覆うマスクだ。
赤と白というコントラストを赤と銀に置き換えるとウルトラマンである。あいにくとウルトラマンがセルクナムという部族が行ってきたハインという祭典にヒントを得ていたのかどうかはわからない。おそらくは無関係だろうが、日本とチリという離れた地域にこのようなデザインが生まれたというのは少し面白い。
インパクトがあるのはこのデザインだけではない。ハインという祭典の土台となる、神話もインパクトのある物語だ。というのもセルクナムという部族は男性社会であり、女性は男の言うことを聞かなければいけない社会で、それがセルクナムという部族に伝わる神話に密接に結びついている。
この地に住む精霊はこの男性社会を成立させるために倫理的な教えを与える。しかし、祭典において現れる精霊は部族の男たちが扮したもので、それゆえに精霊たちはみな、マスクをかぶっているのである。そして祭典に登場する精霊たちが部族の男たちであるということは部族の男たちの間だけでの秘密であり、女たちはそのことを知らない。だから子供と女たちは精霊が本物であると信じているのである。
しかし、驚くのはこれだけではない。彼らに伝わる神話には、現在に至る前の物語があり、その物語ではセルクナムの社会は女性主体の社会だったのである。
つまり、最初は女性主体の社会で、精霊も女性社会を成立させるために存在しており、その秘密は部族の女性たちだけの秘密だったのである。しかしある時部族の男がその秘密を知ってしまい、そこから立場が逆転してしまう。彼らの神話にはそこまでが織り込まれているのである。
南極に近いチリという国。夏でも雪が降る極寒の地で男性社会が生存のために有利だったのかどうなのかは定かではない。というのもセルクナムはマゼランの世界一周の探索によって西洋社会に発見され、そこから大虐殺と、伝染病によって絶滅してしまったからだ。
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