AIの遺伝子 6

安定しているのだが、その一方で、そこで終わってしまうのかという物足りなさもある。
しかし、それはこの物語がAIを主軸とした、心とは何か、あるいは知能とは何かといったSF的な要素だけででみてしまった場合であって、もう一方の、問題を抱えた患者を助けるという医療の物語でもあるということを踏まえると、なんらかの治療が完了したという時点で物語が終わるのだからここで踏みとどまるほうが正しいのだろう。
主人公の医師が治療するあいてはヒューマノイド、つまり人間ではないということでかなり踏み込んだところまで治療の領域が進む。
夫婦仲の悪くなった夫婦に対しては、いくら本人たちが望んでいるとはいえ洗脳に近い形でお互いの心に芽生えてしまった憎しみを取り除いてしまう。
悟りを開くために即身仏になってしまったヒューマノイドに対しては、ヒューマノイドは死ぬわけではなく、機能を停止しているだけだということで、弟子たちの依頼で再起動を試みる。
しかし、即身仏となり機能を停止したヒューマノイドは再起動しない。まるで自らの意志で生き返ることを拒んでいるかのように。そしてそれは悟りななのかもしれないというところで終わる話は、その後の展開が気になるのだが、蘇生できないという時点で主人公の役目は終了しているのだ。
そうかといえば、事故により自身の記憶を失ってしまったヒューマノイドに対して、その人の個性といったものはその人の頭のなかにあるだけではなく、その人をとりまく他の人たちの間の中に存在しているのだ、という哲学的な答えを出す。
自分という存在が自分の体の中にだけある情報によって成り立つのではなく、他者との関係の中にも存在するという考えは面白い。

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