骨餓身峠死人葛

野坂昭如の作品は、書いていたものが僕の趣向とは合わないものばかりだったので、読んだことはなかった。
『火垂るの墓』は有名だが、どんな内容なのかはおおよそ知っていたし、スタジオ・ジブリがアニメ化したけれども、そちらも見たことはない。読むつもりも見るつもりもないのは、悲しい話だからというわけでもなく、多分、そこから得ることができるのは戦争の悲惨さというものだろうし、それだったらわざわざ読まなくっても構わないという気持ちのほうが大きいからだ。もちろん実際に読んでみなければ何が書かれていて何を得ることができるのかなどわかるはずもないのだが、今のところはそういう理由で読んでいない。
が、その一方で、「骨餓身峠死人葛」に関しては読んでみたいという気持ちがあって、しかし、野坂昭如の本は一部をのぞいて殆どが絶版で、もちろん「骨餓身峠死人葛」が収録されている本も絶版だった。
が、『俺はNOSAKAだ: ほか傑作撰』という本が出た。箱入りでなかなか装幀がいい本だ。書店で見かけて収録作品を見てみると、「骨餓身峠死人葛」はもちろん、「乱離骨灰鬼胎草」も収録されている。
「骨餓身峠死人葛」はとある炭鉱の数十年にわたる歴史を描いた物語であるのだが、実際に読んでみると想像を絶する異様な話で、死体から養分を吸い取って成長していく死人葛という植物が一つの縦糸となっている。この死人葛、死体からしか養分を吸収することができないため、土葬された墓の周辺にしか生息しない。しかしその一方でこの葛から取れる実は栄養があり、炭鉱で働く人達の主要な食料となる。
しかし、死体がなければ枯れてしまうのである。そこで彼らが取った手段はというと、とにかく赤ん坊を産み、その赤ん坊を養分とするのである。生きていくために生命を生み出しそしてその生命は生きていくために死ぬ。生と死が直結したこの構図はすさまじい。
その他、表題作の「俺はNOSAKAだ」が面白い。主人公は野坂昭如本人であるが、自分が野坂昭如であることを証明しなければいけない出来事が起こり、やがては、今の状態が夢の中の出来事であり、本当の自分はまだ戦争中の空襲の最中にあるのではないかというSF的な地点に着地する。

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