ハヤカワ文庫JAとして出た『日本SF短篇50』の三巻に収録された川又千秋の『火星甲殻団』が面白く、長編版があることは知っていたので早速読んでみることにした。川又千秋はそれほど読んでいないのでまだまだ見逃している作品がある。
本来ならば絶版状態なので古書を探さなければいけないのだが、幸いなことにアドレナライズという電子書籍専門の会社が川又千秋の作品を電子書籍化してくれていたので簡単に読むことができた。中井紀夫の<タルカス伝>シリーズも出ているんだよねえ。
で、それはさておき、長編版は短編版を引き伸ばした物語というわけではなく、そもそも短編版の終わりを見れば分かる通り、その後の物語りが書かれてもしかるべき内容だったわけで、長編版では短編版のその後が描かれている。
テラフォーミングに失敗し中途半端に植民地化されたままの火星を舞台に、機械と人間との共生状態という生態系は今でこそそれほど珍しいものではないのかもしれないけれども、あまり説明的な要素がなくグイグイとテンポよく突き進んでいく物語はあっさりとしている反面、読んでいて清々しい。そもそも物語そのものが短編版に該当する部分を除けばわずか数日間の出来事で、年代記のようなものを想像しているとそのあっさり加減に驚いてしまう。さらには物語の終盤、わざとなのかそれとも事情があってなのか、肝心要のいわゆるラスボスとの戦いが説明だけで終わっているのに驚いてしまった。ここまで来ると川又千秋が描きたかったのは物語ではなく、機械と人間との共生状態の様子だけだったんじゃないかと思ってしまうのだが、さすがにこの一冊だけで描きたいことを終わられることはできなかったようで、続編がある。こちらも電子書籍化されているので読まないといけない。
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