痔の手術をしてきた

痛みに耐えかねて痔の手術をする決心をした。
痔そのものは三十代半ばからあって、六年ほど前に一回、ALTA注射療法という手術を行なった。これは切らずに薬で固めるという方法で、一日入院しての手術だったが、本来は内痔核に有効な方法で、外痔核にはあまり有効ではない方法である。しかし術後二年ほどは順調で、これだったらもっと早くやっておけばよかったと思ったくらいに軽快だったが、二年を過ぎたあたりからいぼ痔が飛び出し始めてきた。
しかし、痛みは全然なかったので、飛び出したら手で押し込めるという感じでやり過ごしてきたのである。
そんな平穏な日々も今年の初め頃までで、突然痛みを伴うようになってきたのだ。
しかし、仕事が忙しかったので、市販の薬を塗ってごまかし続けたのだが、やがて出血をするようになり、病院へ行かざるを得ない状況になった。
その時はもう、手術をするということを念頭においていたのだが、痔の手術となると前回のときには別の病院で、一週間から二週間は入院する必要があるといわれており、妻のことを考えると当時も無理だったが、今回も無理な状況で、日帰り手術ができそうな病院を探すことにした。
が、結果としてはその病院でも六年前の病院への紹介状を書くよと言われ、そこでの手術は無理で、薬を出してもらって終わりだった。
しばらくはその薬でだましだまし過ごしてきたのだが、やはりとうとう痛みも我慢できない所まで来てしまったので、今度はALTA注射療法の日帰り手術を行っている病院へと行った。
もう手術をする気満々で望んだのだが、まずは大腸の内視鏡検査をしなければいけなく、それが二週間後だった。
大腸の内視鏡検査を行うのはかまわないのだが、問題は検査をするにあたって大腸を空っぽにしておかなければいけないことで、ようするに下剤を飲まなければいけないのである。
朝、六時に起きて1.8リットルの下剤を飲むのである。
下剤そのものの味はポカリスエットとほぼ同じなのでまずくはないのだが、寝起きに1.8リットルは苦しい。
さらには痔持ちの人間にとって排便というのは苦行であって、いつ終わるのかもわからぬ便意と対峙するのは地獄の苦しみに等しい。
で、肝心の内視鏡検査はというと鎮静剤で寝ている間に終わるので苦しみは全然ない。同時に胃カメラの方もやってもらい、上から下から串刺し状態である。
そして、そこから二週間後、いよいよ手術である。
またもや1.8リットルの下剤を飲むのかと心配したのだが、今回は錠剤のみだったので一安心したが、それも前日まで。
翌日に、もう何も出ないのに襲いかかる便意と戦う羽目になる。しかし、この苦しみもこれで最後だと思い耐え忍ぶのだが、病院へ行ってもう一回下剤の座薬を入れなければいけなくって思わず挫けそうになる。
さて二度目の試練にも耐え、点滴を入れられ、そして手術台の上に乗せられる。
心の準備はまだできていないのだが、乗ってしまった以上まな板の上の鯉である。
仙骨硬膜外麻酔が始まる。
痛いと聞いていたが、想像以上に痛い。一瞬の痛みであればまだしも痛みはずっと続く。さらに麻酔が入ってくると圧迫するような痛みに切り替わり、痛みをなくすための麻酔なのに痛いのである。
痛みに耐えているうちにお尻の穴が広げられ、内部の掃除が始まる、今度は麻酔の痛みなど吹き飛ぶような不快感である。
内蔵をグリグリと押される感覚で、痛みはないけれども、もう勘弁してくださいと言いたくなる。
手術の予想時間は四十分だ。とにかく数を数えて気を紛らわせようと思ったのだが、そんなこともできないほどの不快感で、ただ目をつぶって喘ぎ続けるしかない。
左腕に巻かれた血圧計がときおり動き、腕を圧迫する。
しばらくしてシューと萎む。
萎むと、頭の中では終わったという気持ちが起こるのだが、手術はまだ終わっていない。
血圧計が腕を圧迫する。
シューと萎む。
終わったと感じる。
手術は続いている。
無限地獄のような苦しみである。
しばらくすると先生が、これは予想以上の大きさだなとつぶやく。
シューシューとなにか吹きかけるような音がする。
シューシューシューシュー、突然激痛が走る。
いったい何を吹きかけられたのか、塩酸か。と思ったのだが、どうやら電気メスの音だったようである。
部分麻酔なので、麻酔が効いていない部分を切ったようだ。
先生が麻酔を打ってくれる。
シューシューシューシュー、突然激痛が走る。
麻酔を打つ。
今度はその繰り返しである。
無限地獄のような苦しみである。
頑張っている先生には申し訳ないが、全部きれいに切り取らなくってもいいから程々のところで勘弁してくださいといいたくなる。
これだったら日帰り手術ではなく入院しての手術にするべきだったと後悔する。
が、後の祭りだ。
時間は測ってはいないがもう四十分は過ぎたんじゃないかと思う。
先生が、あともう少しだよと言ってくれるのを待つのだが、先生の口からでる言葉は「これは大きいな」だ。
やがて不快感の他に、鈍い痛みが伴ってきた。
最初は気のせいだと思ったのだが、気のせいなんかじゃなく、確実に鈍い痛みが襲ってきた。
なんだか全体的に痛くなってきましたとい言うと、先生が時間は、と看護師に聞く。
一時間十五分です。
という返事が返ってくる。
麻酔が切れ掛かっているのだ。
麻酔を追加するかと思いきや、そんなことはせずにそのまま続行するので、もうじき終わるのだろうと予測する。そう信じるしかない。
しばらくして手術は終わったが、痛みがひどい。
手術台が下がり、起き上がれますかと聞かれる。
そう、自分で起きて、個室まで歩いていかなければいけないのである。
終わったという安堵は予想以上のパワーを発揮し、個室まで歩いて、そして寝台の上に寝転ぶところまでは行くことができた。
すかさず痛み止めが出されたので飲む。痛みが和らぐまで三十分くらいはかかるが、とにかく終わったのである。
しかし、苦しみはまだ続く。三十分たっても痛いのである。二錠目を飲む。三十分ほどさらに経過してようやく鈍い痛みに落ち着く。
個室で一時間ほど休み、問診を受ける。
出血は止まったようで、一安心なのだが、手術の方はというとかなりの手術で、今まで診たなかで一番ひどい痔だったと言われた。
当初は、内痔核はALTA注射療法で、外痔核は切るという予定だったが、内痔核でALTA注射療法では対処できない痔があり、
糸で縛る手術もしなければいけなくなった。
で、結果これが問題で、糸が溶け始めた時期、もしくは糸が途中でほどけてしまった時に、まだ治癒していなかった場合、大出血をしてしまうのである。
大出血すると、入院して手術ということになる。術後一週間過ぎあたりからその危険が始まる。
断りもなしに勝手にそんな手術をしやがって、という気持ちも一瞬頭によぎったが、悪いのは自分である。
二種類の痛み止めを処方してもらい、さらに排便時の突き刺すような痛みのための漢方薬も処方してもらう。
排便時の痛みはあまり考えていなかったので、この薬は飲むことはないだろうと思っていたのだが、数日後、自分の考えが甘かったことを身をもって実感する。
とにかく痛いのである。
傷口に塩を塗り込むような痛みである。
覚悟を決めても小指ほどの便を出したところで力尽きてしまう。
たったそれだけを出しただけで脂汗が出て吐き気もしてくる。そこから痛みが和らぐまで三十分くらいかかる。
処方してもらった漢方薬を飲むのだが効いた気がしない。
手術から、さまざまな痛みに耐えてきたのだが、ここにきてまだこんな痛みが残っていたとは思わなかった。
日帰り手術を選択したのは間違いだったと後悔する。
痛みに耐え、大出血しないことを祈るしかない。

コメント

  1. 香蕗 より:

    私も痔らしき物が出来、出血したりもするので、肛門科へ行ったほうがいいのかな、手術になるのかな、と不安でいます。
    日帰りの手術は恐ろしいですね。麻酔など怖すぎます。他科の手術を経験したことがありますが、全身麻酔でした。麻酔が切れた時は激痛でしたが、座薬の鎮痛剤で瞬時に解決しました。
    でも、痔の手術だと座薬が使えませんね。漢方薬の痛み止めって聞いたこと無いんですが、そんなの効くんですかね……?
    私も手術を勧められたら日帰りは止めておきたいと思いました。

  2. まさや より:

    はじめまして。ブログの足跡から来ました。大変な思いをなされたのですねえ。。早く痛みが和らぎ、治るといいですね。全快するのをお祈りしています。

  3. 天水窯 より:

    痔の手術本当に大変でしたね~ 本当に良く頑張られたと思います
    大変な事を文章にして描いて下さり勉強になります 紳士も痔の病気になるのですね どうぞお体お大切に養生下さいませ

  4. 私も3月に下痢を繰り返してたら痔に。。
    不思議とよくなってますが豊橋まで通うのが悩みどころ。

  5. Takeman より:

    香蕗さん、コメントありがとうございます。
    軽度の手術ならば日帰りでも大丈夫だと思います。
    ただ、通常、痔の手術というと一週間から二週間くらい入院が必要なんですよね。それだけの入院ができる状況であればいいのですが、それが無理だと日帰り手術を選ばざるをえないのですよ。
    漢方薬は芍薬甘草湯といって筋肉の痙攣の痛みを和らげる薬です。
    まさやさん、コメントありがとうございます。
    お心遣い感謝です。
    五十八さん、こんにちは。
    五十八さんも痔の手術をされたことがおありだったのですね。
    痔が予想以上にひどかったので、痛いのも仕方がありません。
    排便時の痛みが和らげばだいぶ楽になるのですが。
    天水窯さん、こんにちは。
    小心者なので、想定外のことに遭遇するとくじけてしまいます。
    紳士と呼ばれたのは初めてですが、私は紳士ではないですよ(^^;
    よっくんぱぱさん、コメントありがとうございます。
    痔にかぎらず病気はなんでもですが、早期発見、早期治療が大切ですね。
    今回は身をもって実感しました。

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