南部殺し唄

滝沢紅子シリーズもこれでおしまい。
前作『前後不覚殺人事件』で滝沢紅子が不在だった理由にまつわる事件が語られることになる。物語の舞台は東京から離れ岩手県、遠野が舞台だ。
舞台が東京でなくなったため、今谷少年探偵団の面々も全員が登場するわけではなく、滝沢紅子と春子の二人だけで、特にタミイが登場しないのは寂しいが、いないせいか全体の雰囲気が落ち着いた感じになっている。
滝沢紅子の父親が刑事だった時に手掛けた事件の犯人が刑期を終え出所したことを知った父親が、紅子に様子を見てきてほしいと頼んだことから物語は始まる。
事件は十年前、老夫婦とその息子、そしてその息子の二人の娘が殺されるという事件が起こる。唯一生き残ったのは老夫婦の息子の妻。彼女は生まれたばかりの娘を連れて実家に帰っていたため、事件の現場にいなかったからだ。
しかし、事件当時の彼女にはアリバイがなく事情聴取をした結果、彼女は犯行を認める。
裁判の結果有罪となるのだが、その裁判を傍聴した紅子の父親は、彼女が本当に犯人だったのか疑問を抱く。
そして十年後、出所した彼女の様子を確かめてほしいと紅子に頼むのである。
自分の家族を殺すというやりきれない事件を背景に、遠野という舞台から想像できるように民族学的なペダントリーが挟み込まれる。そんななか、出所した彼女は彼女の実家の蔵の中で殺される。
彼女が殺されたことで十年前の事件の真相も藪の中となってしまったかのように見えるが、紅子は十年前の事件の真相と、そして彼女が殺された事件の謎を解く。
前三作とはうってかわって、語り口も事件もそして事件の真相も大きく異なる今回の物語は、番外編的な趣もあるのだが、一方で、これまでの事件が滝沢紅子たちが関わることで被害がより大きくなってしまったという部分に対するアンチテーゼのようなものになっているところが興味深い。
この作品を最後にこのシリーズが終わってしまったのは、これ以上は滝沢紅子を主人公として描くことが難しくなってしまったせいなのかもしれない。
都筑道夫の作品群のなかで、傑作群と比べるとランクは落ちるこのシリーズだけれども、再読してみると初読時には気が付かなかった部分が見えたのはよかった。

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