『はかぼんさん: 空蝉風土記 』さだまさし

  • 著: さだ まさし
  • 販売元/出版社: 新潮社
  • 発売日: 2012/8/22

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さだまさしは歌手でありながら、話も面白い。
昔、文庫化された『噺歌集』を読んだことがある。
三時間のコンサートのうち、二時間はしゃべるとのことで有名なさだまさしのコンサート。、『噺歌集』はそのコンサートで話した事柄を抜粋して集めた本だった。『噺歌集』はその後、五巻くらいまででたのだが、その当時はそれほどさだまさしが好きではなかったので、続きを読むことは無かった。
のだが、東京創元社の『極光星群 年刊日本SF傑作選2012』の巻末の2012年総括の中で、この本が触れられていたので興味を持った。何しろ、半村良の『能登怪異譚』と比較されているのだ。
とはいえど、あまり期待して読むと、がっかりするかもしれないので、それほど期待しないように読んでみたのだが、やはり『能登怪異譚』とは味わいが違っていて、そっちを期待するとがっかりするだろうけれども、単純に、日本各地の奇妙な風習の物語としてみた場合、予想以上の内容で面白かった。
というのも、語り手はそのものずばりダイレクトには描かれてはいないけれども、さだまさし本人。その語り手である主人公が各地で体験する不思議な出来事を綴った短篇集なのだが、この語り手、思いの外、民俗学に造形が深いのだ。
ということで、奇妙な風習や、奇妙な体験が民族学的なアプローチでもって語られるという部分が予想外の点で、それが故に、語り手とさだまさし自身とがうまく結びつかず、かえっていい方向へといっている気もする。
全六編なのだが、表題作が一番おもしろい。
というのも、最初に白装束の少年の自殺というところから始まり、それが「はかぼんさん」という言葉に結びつく。やがて、主人公がふとしたことから奇妙な儀式を行なっている夫婦と遭遇し、その儀式が「はかぼんさん」と呼ばれる風習であることが判明するあたりまでは、少年の死と墓をイメージする「はかぼんさん」という言葉によって物語はなにやら不穏な様相を醸しだしているのだが、語り手が聞きだした「はかぼんさん」の正体はそんな不穏な要素などない祖先を敬う儀式であるという方向へと向かう。しかしこの物語の面白さはそこからさらにもう一捻りして「はかぼんさん」という儀式の罪深さと、風習としての儀式を受け入れるために組み込まれた救済手段の残酷さを浮かび上がらせているところにある。
表題作とくらべて他の話はそこまでの残酷さがなく、救いのある話になっていて、それはそれでいいのであるが、地方のさまざまな風習の持つ良い面と悪い面の双方を浮かび上がらせている表題作と比べると物足りなくなってしまう。

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