怪優と呼ばれる役者が少なくなってきたような気がする。
もっとも、怪優と呼ばれるための条件は何かといえば個人差があって、だから、本当に少なくなってきているのかというのは怪しい部分もある。
特に僕の場合は、子供向けの特撮物のドラマに出ているというのが条件の一つになっている部分もあって、岸田森とか天本英世とか大村千吉とか塩沢ときとか、そのあたりが僕の中での怪優なのだ。
そして、その中のひとりに大泉滉という俳優がいる。サルバドール・ダリにその風貌が似ていて日本人離れした顔立ちだったのだが、実際、ロシア人と日本人のクオータだった。というのはこの本を読んで初めて知った。
で、ようやく話が本題に入るのだが、この本の作者、大泉黒石は大泉滉の父親で、ロジア人の父と日本人の母を持つハーフだ。
そもそも大泉黒石という作家がいた事も今回はじめて知ったのだが、多分、この本が大泉黒石の怪奇物語を集めた短篇集でなかったら永遠に知ることなどなかったのかもしれない。
一冊の本と出会うかどうかというのは大きな違いを人に与えるものだと思う。
怪奇物語集というだけあって、恐怖ではない。もちろん怖い話もあるのだが、ここに収録された作品たちはバラエティ豊かで、ミステリタッチの話もあれば、表題作のような正統派の怪奇物語もあれば、幻想味のある話もある。それどころか、「曽呂利新左衛門」のようなリドルストーリーまである。
で、この「曽呂利新左衛門」なのだがリドルストーリーとしての出来はどうかというと、わりと良い。最初からリドルストーリーとして書こうとしたのか、それともうまい決着の付け方ができなくってこうなったのかなどと考えてしまいたくもなるが、しかし、知恵者である曽呂利新左衛門が秀吉に語る物語という構成であることを考えると、曽呂利新左衛門が物語の正しい答えを出すことができないという結末であるこの物語は最初からリドルストーリーとして考えられたとと考えるのが妥当だ。そうした曽呂利新左衛門が答えを出すことができないという設定そのものが、僕好みのひねくれている話なので好きだ。
解説によれば、そろそろ大泉黒石が再評価されてもいいのではないかとのこと。
さいわいなことに志木電子書籍から大泉黒石の本が何冊か電子書籍で出ているでの読んでみることにしよう。
ちなみに「曽呂利新左衛門」は国立国会図書館デジタル化資料の一冊として読むことができる。
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