硝子の葦

文庫化されたので読んでみたのだけれども、オビの惹句がいただけない。
驚愕のミステリとか度肝を抜く大どんでん返しなどと書いてあって、そりゃあ確かにミステリの味付けがしてあるし、2011年の「このミス」でも16位だったからこういうふうに書いてもおかしくはないんだけれども、最初っからミステリとして読むよりは、読み終わってから、これはミステリでもあったなあと思う方がいい。というわけで確かにどんでん返しはあるけれども、桜木紫乃の物語はミステリとして読むよりも、そういう意識を持たずに読むほうが楽しめるじゃないかと思うのだ。
舞台はやはり北海道。
物語が始まって早々、一人の女性が亡くなる。そして時が少し流れて、今度はこの女性の夫が亡くなる。夫は事故で大怪我をして入院していて、そして意識が戻らぬままに亡くなのである。そうした描写が矢継ぎ早に描写された後、今度は時がさかのぼって女性が亡くなる数ヶ月前、冒頭で亡くなった女性、節子の視点で物語が語られる。
視点人物でありながら、彼女の感情的な事柄はほとんど描かれない。これは描こうとしないのかそれとも彼女自身が感情を表に出そうとしない女性なのか、そのあたりは曖昧なままに物語は進む。
冒頭で亡くなった女性がどんな女性だったのかということが少しずつ明らかにされる構成は、アンドリュー・ガーヴの『ヒルダよ眠れ』を彷彿させるのだが、『ヒルダよ眠れ』は夫が妻のヒルダを殺した犯人を探していく過程でヒルダという女性の本当の姿が明らかになっていくのに対して、この物語の主人公である節子の姿というのは、感情を排しているぶん、なかなか見えてこない。

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