東宣出版の<はじめて出逢う世界のおはなし>シリーズの一冊。
「おはなし」というレーベルについている言葉と表紙の雰囲気から、可愛らしい内容を想像するのだが、表紙をめくった見返りにある著者の写真をみると驚く。そこにいるのはマッチョな青年で、可愛らしさの微塵も感じさせない。
しかし、実際に物語の方を読んでいくと、そこに描かれている世界は繊細で、著者近影の写真だけが何かの間違いだったかのように感じられ二度驚く。
最後に収められた話は純粋なSFだけれども、それ以外の話もファンタジー的な要素がある。それでいてキューバという国の現実を描いている部分もあって、冒頭の「トラ猫」はケン・リュウの「紙の動物園」を少しだけ彷彿させる。
夕食を盗んでいったりとす主人公たちを悩ましているトラ猫を懲らしめようと父親の空気銃で、トラ猫を脅かそうとする少年。うまく狙い撃ちしたものの、怪我をさせる程度ですませようと思っていたのに死なせてしまう。
血を流し、息を吹き返そうとしないトラ猫を抱えて家に帰った少年はアニータに助けを求める。
するとアニータは、おばあさんから教えてもらったおまじないを使えば猫ならばよみがえらせることが出来ると少年にいう。
少年の父親は筏でアメリカに向かい、サメに食われて亡くなっている。アニータは実は赤の他人で天涯孤独となった少年を引き取り家族として、また母親代わりとして一緒に生活している。そしてアニータは生きていくために娼婦としてお金を稼いでる。そういったキューバという国における現実の世界を描きながら、アニータは少年のために魔法を使いトラ猫をよみがえらせる。
しかし、それは少年の視点でみた、魔法が現実に存在しているというマジックリアリズムの世界であって、読者の視点で見た場合では、そこで起こった出来事はまったく異なるのだ。
アニータは少年が眠っている間にトラ猫の遺体を処分し、そして次の日、起きてきた少年に対して、猫は子猫として蘇ったのだが、素早くて逃げていってしまったと言う。
その言葉を聞いて少年は、それまで彼女のことをアニータと名前で呼んでいたのだが、はじめてそこでママと呼ぶ。
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