虚構の男

国書刊行会から出た<ドーキー・アーカイヴ>シリーズの第一弾のうちの一冊。
同時発売されたサーバンの『人形つくり』の方はいまひとつ食指が動かないが、L・P・デイヴィスの『虚構の男』のほうはジョン・ブラックバーンのようなジャンルミックスの作品ということで俄然、読んでみたいという気持ちが湧き上がってくる。
が、読んでみるとジョン・ブラックバーンの作品の持つ雰囲気とは少し違うことに気がつく。
ジョン・ブラックバーンの場合はその作品が書かれた時代には存在していなかったが。今でいうモダンホラーというジャンルにほぼ当てはまるし、ジャンルミックスといっても基本はホラーでそれに対してSFやらサスペンスミステリやらの味付けがトッピングされているという感じで、読んでいてある意味安心できる。
しかし、L・P・デイヴィスのほうは、といってもこの一作しか読んでいないのだが、土台となる部分が定かではない。ホラーでもサスペンスでもミステリーでもSFでもない。というかそのどれをも渡り合っている感じだ。
それでいてルール無視のやりたい放題をしているのかといえばそんなことはなく、途中で何度も、どんでん返しといってもいいほどの意表をつく展開をしながらも、そこまでにそれとなく貼られた伏線の範囲で物語をひねり回しているので、職人芸をみせられている気分でもある。
例えば、主人公は作家で、架空の人物の伝記小説を書こうとしているのだが、主人公の名前に悩んでいる。苦心の末、良い名前を思いつくのだが、しばらくして主人公のもとに謎の電話がかかってくる。そして電話の相手は主人公が考えついた人物の名前をつぶやく。といった感じだ。
そんな風に登場人物たちが、そんなことはないだろう、あるいはそうかもしれないなどと、それとなく貼られた伏線によって、読者が想像したり考えたりしたことがしばらくして本当のことだった、というようなどんでん返しが続く。
どことなく、ジャック・ゴールド監督の『メデューサ・タッチ』っぽい雰囲気、もちろん物語の展開はまるっきり違うのだが、丁寧に貼られた伏線とどんでん返し、そしてラストもふくめて似ている感じがした。

コメント

タイトルとURLをコピーしました